それも本望ってもんか
蟷姫が、人間で言うと十歳くらいに見えるガキを食い殺したことについてあれこれ考えちまう自分はやっぱり<人間>なんだってえのを思い知らされちまったりしたが、だからって蟷姫に対する気持ちはまったく変わらなかった。
愛おしいんだよ。『離れたくねえ』って素直に思えんだ。
もちろん、いつか俺が蟷姫に食われちまうこともあるのかもしれねえが、それだって、
『こいつに食われて死ねるんならそれも本望ってもんか』
って思えるしな。
そんな蟷姫は、毎日、俺を求めてくる。だから俺もそれに応える。
そのクセ、気分じゃねえ時にはぜんぜん俺のことを見もしねえ。人間の女にゃやたらとベタベタしたがるのもいるが、そうじゃねえのは本当に助かる。その意味でも、こいつは俺にとっては<理想の女>だったぜ。
『食われて死ぬかもしれねえ』
ことも含めてな。
が、そんな簡単に食われちゃやらねえけどな。
ヤる以外にも、毎日、俺に挑んできやがるのも変わらねえ。この感じで構ってもらおうとすんのを嫌う男もいるだろうけどよ。俺はイチャイチャベタベタしようとする奴よりゃあよっぽど好きだぜ。
しかも、俺の<技>をどんどん吸収しやがって、しかもそれを自分なりにアレンジして使いやがる。そのアレンジがまた、こいつの生態ってのにしっかり合ってるってえ感じで使いこなしてやがる。
人間よりゃずっと頑丈な体をしてっから、防御の仕方がまるで違うから、防御についちゃてめえの頑丈さを利用して、その分、攻撃に力を割いてるんだ。それもあって、単純なウェイト相応の威力じゃねえ。
俺のを真似した回し蹴りで、俺の上腕くれえの太さの木の幹をへし折ってみせたのには肝を冷やしたぜ。俺の場合は自分の体重を乗せても一発では折れねえ。あんまり無茶をするとこっちが壊れちまう。普通の人間よりゃ頑丈な体をしてるつもりだったが、それでも、全身を鎧みてえな皮膚で覆われた蟷姫と同じにゃなれねえってのを思い知らされた。
けどな、だからって俺が蟷姫みてえになる必要はねえ。蟷姫は蟷姫。俺は俺だ。『違ってる』ってえのを頭に入れねえで同じになろうとするなんざ、ただの間抜けだ。
俺は体格の点で圧倒的に有利だ。蟷姫はカマの分だけ手のリーチは長えが、実はカマそのものは大して重くねえし、そこまで頑丈なもんでもねえ。その気になりゃ簡単にへし折れるだろ。蟷姫の方もそれは分かってて、あくまで相手を捉えて動きを封じるために使ってるだけだ。
分かりやすい<打撃力>という意味じゃ、やっぱ<蹴り>と<頭突き>だな。こっちはそれこそシャレにならねえ威力がある。