何の意味もないこと
蟷姫が<白ウサギのコスプレザルのガキ>を貪っているその脇で、俺は、そのガキの冥福を祈っちまってた。
まあそんなもの、人間以外の動物にゃあ何の意味もないことだよな。
俺もそれは分かっちゃいるんだが、なんてえか、収まりが悪りいんだよ。気持ちが落ち着かねえ。
頭じゃ、<くだらねえ無意味なこと>だって思っちゃいるんだがなあ。
けどまあ、蟷姫にも俺と同じように感じろ、同じようにしろ、みてえに言わねえのなら、俺が勝手に頭の中で思ってるだけってえなら、別に構わねえよな。
俺がそんなことを考えてる間にも蟷姫はガキを貪って、完全に動かなくなったら、興味を失くしてすっと立ち上がった。しかも口の周りに着いた血をベロベロと舐めとりながら、俺に顔を寄せてきやがる。
『顔に付いた血を舐めとってくれ』
ってえことだな。俺が前にそうしたようにやってくれってせがんでるんだ。
こいつにゃ、人間としての俺の感覚なんざ理解できるはずもねえ。
だが、そう思っても、こいつに対する気持ちは冷める気配もなかった。それどころか、こいつの望む通りに、顔についた血を丁寧に舐めとってやった。イジメられた果てに蟷姫に食われて死んだガキの血をな。
だが、嫌悪感も罪悪感も湧いてこねえ。
ここじゃ人間である俺の方が普通じゃねえんだ。こんなことをいちいち気にするのが本来は異常なんだよ。
だったら振り切るしかねえだろ?
なあに、テロリストのガキを撃つのと一緒だ。そのうち慣れんだろ。
しかも、俺が顔を舐めてやると蟷姫も気持ちが盛り上がってきたみてえでよ。そのまま俺を押し倒して跨がってきやがった。なら、俺もそれに応えるしかねえ。
愛してるぜ、蟷姫。
あの白ウサギのコスプレザルのガキの命は、こいつの命になったんだ。だったらこいつが生きることがあのガキの命を無駄にしねえためにゃ必要だろ。
なんてことを考えんのも俺が人間だからか。こいつはそんなことも考えちゃいねえよな。てめえの命を最後まで生かすために生きてるだけだ。
だから俺も生きるさ。こいつと一緒に。
まあ、あの白ウサギのコスプレザルを食う気にゃならねえけどよ。肉食獣ったってなんでも食うわけじゃねえだろ。好き嫌いはあるだろうぜ。なら、俺も選り好みくらいはさせてもらう。
『好き嫌いはよくない』
とか寝惚けたことをホザく奴らなんざ知ったこっちゃねえ。
で、ガキの死体はそのままにしておく。これも他の生き物の食い物になるしな。埋めるだけならまあいいにしても、人間みてえに灰になるまで燃やしちまったら、他の生き物が食えねえじゃねえか。