もっとお前の力を見せてくれ!
普通ならその時点でショック死してもおかしくねえダメージだっただろうよ。
けどこの時の俺は、アドレナリンとかがおかしいくらいに出まくってたんだろうなあ。痛みらしい痛みは感じなかった。感じなかったんだが、さすがに壊れた分だけパフォーマンスは低下してたってのは分かる。
万全の状態で一撃を放ってもそれを超えられたんだぜ? 万全の状態じゃなくなったらどうなるか、それこそお察しってえもんだろ。
それでも、俺だってすぐに諦めるわけにゃいかねえな。まだ満足はできねえ。まだ終われねえ。
もっと、もっとだ! もっとお前の力を見せてくれ!
ああそうだ。俺は幸せだったんだ。人間の社会は俺には窮屈で仕方なかった。いっつもいっつも手加減してて、他の奴に気を遣って、壊してしまわねえようにって自分を押し込めてた。それがここじゃ、手加減しなきゃならねえことの方が少なかったんだよなあ。
んで、蟷姫と出逢って、子供まで作って、そしてその子供が俺を楽々超えてきたんだぜ? 俺がいたからこいつはこれほどの力を付けることができたんだって思ったら、ケツから頭のてっぺんまで痺れるくれえに嬉しいじゃねえか。
ちくしょう! 楽しい! 楽しいなあ、行道!!
もうこの後のことなんざ何も考えなくていい。自分の血が肺に溜まって呼吸もできねえ。だから、完全な無呼吸で動くことができるほんの数十秒が俺に残された時間だろう。
けどな、たったそれだけの時間が、たまらなく楽しいんだよ。
もう、技もへったくれもねえ。俺の体に染み付いた動きがとにかく勝手に出てくるだけだ。頭で考えてなんざいられねえんだよ。
それこそガキの頃から繰り返し繰り返し体に覚え込ませていった、染み込ませていった、<生きるための体の使い方>ってえのが勝手に出てきやがる。
俺の体が、生きるために蓄えてきたもん全部を使って俺自身を生かすために足掻きやがる。
ここで見てきた獣達と同じだってのを感じるぜ。あいつらも、諦めてなんざいなかった。体が動くうちは命を掴もうとしてやがった。
俺は人間だからな、頭じゃもう無理だってのは分かっちまう。ここを生き延びたところでそのすぐ後で俺は死ぬ。
でもな、そんな理屈はどうでもいいんだよ。生きてる限りは生きるために足掻くんだ。御託はいらねえ。
その俺の最後の足掻きを獣共が見てるのが分かる。俺もこれまで散々見届けてきたけどよ、今度は俺が見届けられる側か。
その中でも俺の体が壊れていく。
腕が折れ、脚が折れ、顎が砕ける。
それでも俺はやめねえ。やめられるわけねえだろ! こんな楽しいことをよお!!