事後処理
杠は事切れた聖也を見つめながらな愉悦に満ちた表情を浮かべ高揚感に満たされていた。
「はぁ、本当に最高ね、聖也」
そう言って隠しておいたキャスター付きの大きなキャリーバッグを用意する。
「ふう、これからの処理の方が憂鬱になるわね。裏口から防犯カメラには映らないように部屋には上げたし多分大丈夫よね……」
一つ一つを確認するように言葉にする。
そうしてもの言わぬ肉塊となった聖也をキャリーバッグに収めていく。
――数日後
杠が街を歩いていると突然見知らぬ男に声をかけられた。
「なぁちょっと。あんた杠ちゃん?」
杠が振り返るとそこには短く刈り上げた髪を茶色に染めた少し小柄な男が立っていた。
「……どちら様でしょうか?」
杠は眉根を寄せ、警戒感を露わにしながら問いかける。
「あ、えっと、俺は隆って言うんだけど聖也のツレなんだ。聖也の事は知ってるよね?」
杠は即座に考えた。
『この人が聖也が口を滑らした隆か。ここで知らぬ存ぜぬで通せば逆に怪しまれるかもしれない。一体私の事を何処まで知っている?』
「……ええ、聖也は知ってます。それが何か?」
少し距離を取りつつ最低限の質問に答える。
「あ、いや、聖也が最近連絡とれなくてさ。あんた何か知らないかなって思って」
「なるほど。……隆さん。何故私が杠だと知ってるんですか?写真か何か見たんですか?」
「いや、あんた聖也と化粧品店行っただろ?その時の店員の子がさっき『あの子かも』って教えてくれてさ、それであんたに声をかけたんだよ」
「……なるほど。そうですか。あの時の店員の子がねぇ……。それよりも何故私なんですか?他にも聖也の事知ってる人はいるでしょう?髪の長い彼女とか」
「え、ああ、優里亜ちゃんの事も知ってるのか?勿論あの子にも聞いたけど知らないらしくてさ。聖也がいなくなる前に『今度杠が手料理を振舞ってくれるらしくてさ』って言ってノロケてたからさ、何か知ってるかなと思って」
『あの馬鹿どれだけ口が軽いんだか』
「まあ、確かにそんな話もありましたけど実際はその優里亜さんでしたっけ?その子の存在がわかったんで、こちらからお断りしたんです」
「ああ、そうなんだ……」
隆は視線を落とし明らかに落胆していた。
「なんでいつも男の人って自分勝手なんですか?その時も彼女の存在指摘したら逆上して訳の分からない理屈並べてくるし、女を自分の所有物か何かと勘違いしてるんじゃないですか?」
捲し立てる様に責め立てる杠に対して隆は気圧されていた。
「いやまぁ、その、確かに聖也は少し女癖悪かったかもしれないけど――」
「少し!?あれを少しとか言うんですか?本当男の人って信じられない」
少し怒った素振りを見せ、嫌悪感を露わにすると僅かにそっぽを向いた。
「いや、その、なんて言うか……」
杠の計算された言動に翻弄される隆を見て杠はほくそ笑んだ。
「……ふぅ、まぁ貴方に言ったって仕方ない事なんですがね。ごめんなさい。少し理不尽でしたね」
そう言って深々と頭を下げる。
「いや、そんな良いんだよ。それに悪いのはきっと聖也の方だから……」
慌てて取り繕う隆を見て杠は『意外にお人好しなタイプね』そう思い、思わず含み笑いを浮かべる。
「ねぇ隆さん。聖也が行方不明なら警察とかに働きかけた方が早そうだけど、そうはしてないの?」
「いやぁ警察はちょっと苦手だし、それになんか大事になっちゃうだろ?もし誰かの所に転がり込んでるだけって事もありえるからさぁ」
「まぁ確かにそうですね。それと隆さん。他にも誰かと一緒に聖也の事探したりしてるんですか?」
「いや、誰かに言おうかとも思ったんだけど、ほらさっきも言ったけど大事になってもさぁ。だからひとまずは俺一人で探してるんだけど」
「なるほど。せっかくだから私も少し手伝いましょうか。ちょっと気になる事もあるんで」
「気になる事?それって何?」
「それは今はちょっと。……それより貴方が言っていたように暫くは私達二人で探しましょう。あまり大人数になるとそれこそ収集がつかなくなるかもしれませんし。とりあえず三日後にもう一度会いませんか?」
「三日後?まぁいいけど」
そう言って二人は三日後に会う約束をしてその日は別れた。