獲物①
これまでそれなりに恵まれた容姿のおかげで結構な数の女性と付き合ったり遊んだりしてきた。
しかしモデルの様に綺麗な子でもアイドルの様に可愛い子でも満足する事はなかった。
いや寧ろそういった女達は我が強くてちょっと扱いを間違ったり自分の思い通りに行かなかった場面、途端に機嫌が悪くなり喧嘩になる事が多かった。
だから俺は男慣れしてなさそうで派手さは無くとも素材は上級な自分色に染められる原石の様な女性を探し求めていた。
ある日、特に何も予定など無く街を彷徨いていると一人の女に目が止まった。
『この子だ』
聖也は直感でそう思った。
急いで声をかけたが素っ気ない態度であしらわれた。
しかしそんな事は聖也の想定内。
諦める事無く話続けているとようやく女性は足を止めた。
「じゃあひとまず自己紹介。俺は聖也。21歳。とりあえず今はフリーターしてます」
聖也は身分を明かし最高の笑顔で相手の警戒を解こうとする。
「じゃあ聖也さん。何故私なんですか?」
聖也が自己紹介したにもかかわらず名前すら教えようとしない。
寧ろいまだ笑顔を見せず毅然とした態度を取っている。
「いや、あの、お姉さんは自分の事地味な女だって言ってたけどそうじゃなくてまだ純真なだけなんじゃないかな。それに素材は一級品なんだから少しメイク覚えるだけですぐにそこら辺の派手な女よりずっといい女になれるよ」
「じゃあ今はそこら辺の派手な女より下って事ですね。私はこの歳で化粧も覚えてないし、そこら辺の派手な女よりいい女になるつもりもないんで聖也さんも諦めた方がいいんじゃないですか?」
『なんてネガティヴな女なんだ。いや俺の事を毛嫌いしてるだけだろうか?』
さすがの聖也も少し戸惑ってしまった。
「いやいや、そんな卑屈にならないでよ。本当にお姉さんスッピンでも綺麗なんだからさぁ。それにそろそろ名前だけでも教えてくれない?」
女は少し考えた後、口を開いた。
「私は杠19歳の学生です」
「おお杠ちゃん。ゆずちゃんとかの方がいいかな?」
「・・・杠でお願いします。『ちゃん』付けで呼ばれると子供扱いされてる様で嫌なんです」
「よしわかった。じゃあ杠、俺の事も『さん』付けなくていいから聖也でよろしく」
「はい。では聖也、私に何か用ですか?」
相変わらず『にこり』ともしない素の表情で聖也の方を見つめてくる。
「とりあえずついて来てよ。絶対悪いようにはしないから」
そう言って聖也は知り合いがいるデパートの化粧品売り場まで連れて行った。
少々回りくどくなったがようやく獲物を手に入れた瞬間だった。