出会い
他サイトで短編として上げていた物を少し手を加えて投稿します。本来一人称だった物を三人称に変更しました。初めての三人称の為少しお試し的な部分もありますがご了承ください。
「あのすいません。ちょっとだけいいですか？」
杠が街を歩いていると若い男が声をかけてきた。
『昔、初めての男もこんな感じで出会ったんだったなぁ。』
思わず思い出した。
『ハァ、ハァ、駄目、ねぇお願い。もう我慢出来ないの。もういいでしょ？』
あの日の事は今も覚えている。
－5年前－
杠は大学に通うため上京してきた。
入学して暫くしたら彼女の立ち位置も決まりかけていた。
サークル活動にも興味が無く、積極的に友人も作ろうとは思わない。
恋愛らしい恋愛もしてこなかったし、何より化粧すらほとんどしない杠に寄ってくる異性など皆無だった。
地元を離れ日本一騒がしく華々しい街に来ても自分自身で変わる意志がなければ何も変わらないのだ。
そんな何もない平凡な毎日を過ごしていたある日、杠が街を歩いていると突然声をかけられる。
「ねぇちょっとお姉さん。少しだけ話さない？時間ないかな？」
不思議に思い声がした方を振り返ると、そこにはどう考えても杠とは似つかわしくない派手な男が立っていた。
「ねぇお姉さん一人だよね？ちょっとだけ俺にお姉さんの時間使ってよ」
そう言って若い派手な男は人懐っこい笑顔で杠の方へ近づいて来た。
「勝手に私の時間の使い方決めないで下さい。それに私はお金持ってませんから。それとも何か罰ゲーム系ですか？」
『こういう男が私に声をかけて来る場合は何か裏があると思った方が妥当だな』
杠は自分の容姿を客観的に理解していた。
「いやいや、ちょっと酷いなぁ。俺はホストとかじゃないし別に罰ゲームをしてる訳じゃない。ただ純粋にお姉さんと話がしたかっただけなんだから。俺傷付いちゃうよ」
そう言って男は傷付く様子もなく寧ろ楽しそうに笑っていた。
「そうですか、それは失礼しました。ですが私みたいな地味な女より貴方ならもっと華やかな女性の方がいいんじゃないですか？少なくとも私はそう思います」
杠は軽く頭を下げ、その場を離れようと歩きだす。
「あ、ちょっと待って。わかった。歩きながらでいいから話を聞いて。本当に俺はお姉さんと話がしたくて声をかけたんだって。それにもっと華やかな女って言うけど・・・」
その場を去ろうと歩きだした杠に対し男はしつこくついて来て話しかけてくる。
これ以上ついてこられると目立って仕方ない。
杠は歩みを止め、仕方なく男の話に付き合う事にした。
「あ、やっと止まってくれた。俺の熱意が伝わったのかな？」
男は相変わらず屈託の無い笑顔を向けてくる。
「いえ、呆れてるだけです。では何故私なのか教えていただいてもいいですか？」
これが杠の初めての男『聖也』との出会いだった。
