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【連載中】五芒星ジレンマ  作者: 柚中 眸
第1章 知ること
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第33話 選択

 木箱の中には、杖や本をはじめとする魔法道具が詰め込まれていた。好きな物を探すように言われたすすきは、目を輝かせながら一つずつ手に取ってみた。杖にはさまざまな形の物があり、他にもマントや鏡やペンダントなどがあった。


「わあ……これが魔法道具。でも私は魔力なんて無いですよ。本当に大丈夫なんでしょうか?」


 魔法使いなんて子供の頃の憧れでしかなかった。そのため、本当に魔力が手に入るのかという疑問は残っていた。あれこれと品定めしながら尋ねると、ハクトがにこやかに答えた。


「正確には、僕ら魔法使いから魔力を借りることができる道具なんだ。香火石(こうかせき)と同じ原理だよ。あの石は、製造工程で魔法使いがほんの少し魔法をかける。だから、魔力を持たない人間でも扱えるようになっているんだ」


 魔力を全く持たない人間が魔法を使うには、間接的にその力を借りるしかないとのことだった。


 隊長たちの持つ懐中時計も同じ原理だ。皇帝以外の魔法使いや、人間であるフウガが空間移動できるのは、ハクトの魔力を借りているためだ。


 説明を受けたすすきは、再び魔法道具へ視線を落とした。確かに、どの道具にも石のような物が埋め込まれていた。杖や本というよりは、やはり魔石と呼ばれるこの石が重要なのだそうだ。


 すすきが移動手段として使う場合も、誰かが魔法をかける必要があるらしい。ハクトの言葉にウンウンと頷きながら、すすきは心惹かれるものを探し続けた。


 すると、木箱の底に隠れるように、丸い何かが埋もれていることに気が付いた。他の道具をかき分けて手に取ってみると、それは手のひらほどのブローチだった。


 表面は美しい青色で、星の形をした金の装飾が施されていた。真ん中には少し大きめの魔石が付いていて、それを囲むように五つの魔石が等間隔で配置されていた。全ての魔石が透明で色がなく、まるで本物のクリスタルのようだった。


「……可愛い」


 両手で持ち上げたブローチを見つめて、すすきは思わずそう呟いた。だが、箱に入っていた物の中では一番高価な物に見えた。これがいいとは言いづらい……などと考えていると、理事長が愉快そうに笑った。


「ほっ、ほっ、ほ。見つかってしまったのう。それはワシのコレクションの中でも一番貴重な品物じゃ。なにしろ、ハクト様の手作りじゃからな」

「え⁉︎ そ、そうなんですか?」


 驚いたすすきがハクトに視線を向けると、彼は照れ臭そうに頬を掻いた。


「子どもの頃に遊びで作った失敗作だよ。全部処分したつもりだったんだけど、まさか理事長が持っていたなんてね」

「貴重な思い出じゃからな。こっそりと隠しておったのじゃ。残っておるのは、おそらく唯一これだけじゃろう」


 理事長はそう言いながら、懐かしそうに目を細めた。


 ハクトがこのブローチを失敗作としたのは、特定の人物の近くにしか移動できなかったからだそうだ。その仕組みを聞いても理解が追いつかず、プスプスと煙を出し始めたすすきに、ハクトが笑いながらこう説明した。


「つまり、この埋め込まれた六つの魔石に、それぞれ魔力を込めてもらうんだ。そうすると、協力してくれた六人の近くに移動できるようになる。一つはもちろん僕だけど、他の五つを誰にするのかは自由に選んでいい。すすきちゃんの場合は、隊長五人になるね」


 言い終わると、ハクトは思い出したように、フウガは魔力がないから駄目だと付け足した。余った一枠は、誰か代わりの人物を探してほしいとのことだった。


 すすきは、再びブローチを見つめた。どうしようかと迷ってはいるが、視線はブローチから離れなかった。このまま手離す気にもなれず、かと言ってこんな貴重な物を欲しいとも言いづらかった。


 どうにも決めきれず、すすきはチラリとシンの方へ視線を向けた。反対されそうな気がしたからだ。皇帝の作った物を人間が持ち歩くなんて、きっと許してもらえないと思った。


 だが、返ってきたのは意外な言葉だった。


「なぜ俺を見るんだ。欲しい物くらい自分で決めろ」


 呆れ返った表情で、シンはそう言った。すすきは、驚いてパチパチと瞬きを繰り返した。そして、晴れやかな顔でハクトと理事長の方ヘ向き直った。


「私、これがいいです」


 すすきの答えに、二人は快く頷いた。そして、すすきは促されるまま、両手で持っていたブローチをハクトの前に差し出した。


 真ん中に付いている少し大きめの魔石に、ハクトが触れる。すると、透明だった魔石が、黄色い光を放ちはじめた。それは時計塔で見せてもらった、ハクトの懐中時計と同じ光だった。


 光が収まると、魔石には完全に黄色が定着した。淡く美しい魔石にすすきが見惚れていると、背後からぶっきらぼうな声がかけられた。


「おい、人間」


 短いその言葉に振り返ると、五芒星の右下にある魔石に、シンが触れた。すると今度は、小さな魔石が赤い光を放ちはじめた。


 これがシンの色だ。この世界に来た時、初めて見た赤い光のことを思い出した。意識が朦朧としていたこともあり、あの時の記憶は薄くしか残っていない。だが、この赤い光のお陰で、あの人たちが第三部隊だったのだということが確信に変わった。


 そして、魔力を分けてもらえたことで、ハクトやシンには関わりやすくなった。どこにでも自由に移動できる訳ではないが、今までより行動範囲は広くなるだろうとのことだった。


 他の隊長たちの分は自力で集めるようにと言われたため、新しい目標も出来た。なんだか慌ただしくも充実した日々を過ごせている。そんな現実に嬉しくなり、思わず頬が緩んでしまった。


 すすきは、三人にお礼を伝えて、さっそく胸元にブローチを付けた──その時だった。理事長室の扉が勢いよく開き、数名の生徒が飛び込んできた。


「理事長先生! 大変だ!」


 切羽詰まった彼らの声が、室内に大きく響き渡った。

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