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【連載中】五芒星ジレンマ  作者: 柚中 眸
第1章 知ること
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第21話 混血

 声を掛けてきたのは、色素の薄い茶髪で、生意気そうな顔をした男だった。黒い隊服を着ているが、金の装飾は少ない。見た目だけで考えると、隊長や副隊長ではなさそうだ。


 二つ星。つまり第二部隊のプレートを付けているその男は、スノーボードのような物に乗っている。魔法を使っているのか、板は地面から少し浮いていた。


 メディカから聞いた話では、空を飛ぶための道具は、魔力を込められる物ならなんでも良いらしい。このスノーボードのような物も、移動手段の一つなのだろう。


 そんな男に、アーロが厳しい表情を向けた。


「ティム、言葉が過ぎるよ。被災者はまだそこにいるんだ。少しは人の気持ちを考えて発言しろと何度言ったら──」

「あ〜、はいはい。わかった、わかった。それで、アーロ様は今から皇帝の新しい嫁とデートなわけ?」


 ティムと呼ばれた男は、両耳を手で押さえて聞こえないフリをしながらそう言うと、すすきへと視線を移した。アーロが「誤解を招くことを言うな」と怒っているが、気にする様子はまるでない。すすきはティムの軽いノリに驚きつつも、ペコリとお辞儀をした。


「はじめまして。嫁ではないですが、三上すすきといいます。よろしくお願いします」

「よろしく〜。オレはティム・ラヴィーネ。第二部隊の隊長補佐やってる。気軽にティムくんって呼んでいいぞ」

「あ、はい。……ティムくん」

「うん。上手、上手。じゃ、デート楽しんでね!」


 ティムがニッコリと満足気な笑みを浮かべると、彼の乗っている板の下から冷たい風が吹き上がった。微かに粉雪が舞い、風の勢いで空中に飛び上がったティムは、そのままエルトンの元へ向かっていった。


「あれ乗り物なんですね。魔法使いってやっぱり凄い」


 すすきは手を叩きながら感嘆の声を上げた。空を飛ぶ道具や魔法使いの移動手段といえば、箒や絨毯が定番だ。しかし、エルフランドの魔法使いは本当に何でもありのようだ。


「ティムは正確に言うと魔術師だけどね。魔法使いの母と人間の父の間に生まれた混血。ちょっと子供っぽいところはあるけど、明るい性格で、戦闘能力もある。悪い子ではないから、仲良くしてあげてね」


 そう言ったアーロに、すすきは笑顔で頷いた。


 アーロによると、ティムは雪の魔法が得意なのだそうだ。乗っている板を動かしているのも勿論魔法。母の血を濃く受け継いでいるため、純血に匹敵するほど魔力は大きいらしい。


 雪の魔法。なんてロマンチックなんだと想像を膨らませていると、アーロに再び手を握られた。そして、帰ろうかと声をかけられた次の瞬間には、時計塔の足元まで戻って来ていた。


 浮いていた荷物が、フヨフヨとすすきの方へ向かって飛んでくる。両手を差し出すと、荷物はその上に静かに乗った。魔法が解けたのか、突然ずしんと重さを感じて、すすきは慌てて荷物を抱き締める。そして、アーロに向かってペコリとお辞儀をした。


「アーロ様。また送っていただいて、ありがとうございました」

「いいんだ。気にしないで。それじゃあ、僕はもう一仕事してくるよ。またね、すすきちゃん」

「はい! お気をつけて」


 アーロが手を振って消えてしまうと、その場はシンと静まり返った。なんだかんだと騒々しい一日だったが、そろそろ日も暮れそうな時間になっている。すすきは鍵を取り出すと、自室の扉を開けた。


 静かな室内に、ドサリと荷物を置く音が響いた。テーブルに紙袋を置いたすすきは、シャワー室へ向かう。本当に石を入れるだけで湯が沸くのだろうか。信じられないとも思いながら、浴槽へ水を溜めはじめた。


 しばらく経って様子を見に行くと、丁度良い高さまで水が溜まっていた。蛇口を捻り水を止めると、半信半疑で香火石(こうかせき)を入れてみる。


 すると、立ち耳うさぎの形をした石がブクブクと泡を出しはじめた。五分、いやもっと短かっただろうか。眺めているうちに水面から湯気が立ち、ほんのりとストロベリーミルクの香りが漂いはじめた。


「……ほんとに沸いた」


 熱している訳でもない、ただの冷たい石。それを入れただけで湯が沸いた。現実的にはあり得ない光景に、すすきはその場で固まっていた。


 これでも純度が低い魔石だというのだから驚きだ。もっと純度が高い魔石を使えば、これ以上にあり得ない現象を起こすことも出来る。空間移動もその一つ。人間のフウガが自由に移動出来るのも、純度が高い魔石とハクトの魔力のおかげなのだ。


 便利だが、使い方を間違えれば危険な物。やはり魔法とは少し怖いと感じながら、すすきは風呂の支度をはじめた。


 湯船に浸かると、一日の疲れが落ちていく。ほんのりと鼻をくすぐる甘い香りに癒されながら、慌ただしい一日が終わった。


 明日は、どこへ行こうか。出掛けた先で誰と出会うのだろうか。エルフランドでの生活はどのくらい続いていくのだろうか。本当に帰れる日が来るのだろうか。


 温度を保つように泡を出し続ける香火石を見つめながら、すすきは遠く離れた往始町(おうしまち)と三上書店へ思いを馳せた。

読んでくれてありがとうございます⭐︎


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