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【連載中】五芒星ジレンマ  作者: 柚中 眸
第1章 知ること
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第17話 写真

 目の前に現れたアーロは、青白い顔でふらつきながら紙を手渡してきた。フウガが受け取ったそれを、すすきも覗き見る。そこには、調査報告書と書かれていた。シールド外の調査に出かけた時のものだろう。完成した報告書を渡しに来たようだ。


 仕事はキッチリこなしているようだが、昨日の爽やかな姿はどこへやら。アーロは今にも死にそうだった。


「アーロ様。あの……大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ちょっと二日酔いで頭が痛くてね。でも平気……ッウ⁉︎」


 心配になったすすきが遠慮がちに声を掛けたが、答え終わらないうちに、アーロは口元を押さえて姿を消してしまった。すると、報告書に目を通していたフウガが顔を上げた。


「ありゃ、便所に駆け込んだな。ったく、だから飲み過ぎだって言ったんだよ。しかし、空間移動ってのはこういう時に便利なもんだ。まあ、俺はそんなに正確な位置には飛べないがな」


 そう言ってゲラゲラと笑いながら、大きな手がすすきの首根っこを掴んだ。驚いたすすきが短い悲鳴を上げる。そして、手元からずれ落ちそうになった紙袋を抱き締めた瞬間に、目の前の景色が一変した。


 移動した先は、騒がしかった街なかとは違い、閑静な住宅地だった。フウガに降ろされたすすきは、建ち並ぶ家屋を眺めた。すると通りの一番端に、見覚えのある小さなログハウスを見つけた。どこかで見た記憶がある。思い出してみると、シンの家と同じ造りであることに気が付いた。ただ一つ違うのは、扉の色だ。シンの家はボルドーだったが、ここはオレンジ色をしている。


「フウガ様、あの家って……」

「アーロの家だ。水でも飲ませに行ってやるかと思ってよ。すすきもハクト様のお願いとやらで、俺らと関わらなきゃならねぇんだろ? だったら家くらい知っておいても損はねえ。そら、行くぞ」


 促されるまま、すすきは小走りで着いていった。


 アーロの家には鍵が掛かっていなかった。扉を開くと、間取りはシンの家と同じだった。自炊をしているのか、彼女がいるのか、キッチンには酒や調味料が並んでいる。そして、トイレの方からは苦しそうに呻く声が聞こえてきていた。


 すすきは棚にあったグラスを手に取り、水を入れた。そして、アーロに届けてあげようと振り返ると、ヒョイとグラスを取り上げられた。


「たぶん汚ねえから、俺が行くよ。すすきは部屋の中で待ってな」

「いいんですか?」

「ああ。その代わり、寝かせてやりてえから、ベッドを整えておいてくれ」

「わかりました」


 コクリと頷いて、すすきは部屋の中へ移動した。テーブルの上に荷物を置いて、カーテンを開ける。明るくなった部屋には、ベッドやチェストなど生活感のある物が並んでいた。チェストの上には、いくつかの写真が飾ってある。近付いて見てみると、家族写真のようだった。


 その中の一枚に、幼い男の子と女の子が寄り添って、仲睦まじく笑っている写真があった。


「もしかして、妹さんかな?」


 おそらく、男の子はアーロ。隣の女の子は妹だろう。金髪のボブカットで、顔立ちもよく似ていた。こんなに可愛い妹がいるなら、面倒見のいいお兄さんになるのも頷ける。


 この子ともそのうち会えるだろうか。仲良くなれたらいいな。そんな風に思って、すすきは微笑んだ。そしてベッドの方へ向かうと、少しズレた布団を直した。


 しばらくして、フウガが部屋に入ってきた。担がれているアーロは目を回している。ドサリとベッドに落とされて、そのままスヤスヤと眠ってしまった。


「アーロ様、きっと調査でお疲れだったんですね」

「まあ、調査の疲れもあるかもな。でも、体調崩すほど飲んじまった理由は別にありそうだ。こいつ、すすきに会ってよっぽど嬉しかったんだろうよ」

「……私に?」

「ああ。妹みたいな子と出会ったって、ゆうべはずっと……そればっかり言ってたからな」


 フウガの視線が、先程見た写真に移った。そしてフッと悲しげに笑った。


「その子、やっぱり妹さんですか?」

「ああ。この子はライラ・ルパウス。アーロの妹だが……もういない。随分と昔に、消えちまったそうだ」


 アーロ本人から聞いた話だと、フウガは言った。


 ライラ・ルパウス。アーロのたった一人の妹。その子は、ある日忽然と姿を消した。世界がまだ闇に覆われる前のことだった。幼いアーロは妹のライラを連れて、とある丘に遊びに来ていた。日差しの強い、夏の日だったそうだ。二人は仲良くシロツメクサの花冠を作っていた。どこにでもいる普通の兄妹。いつまでも一緒にいると思っていた。


 妹は兄に、花冠に四つ葉のクローバーを付けたいと言った。妹のわがままを快く受け入れ、兄はクローバーを探しはじめた。しかし、なかなか見つからない。そのため、別の場所も探してみようと、兄はほんの少し妹から目を離した。


 そして、クローバーを見つけた兄が振り返ると、そこには誰もいなかった。夏の風に攫われたように、妹の姿が消えていた。兄と両親は走り回った。エルフランド中を探し回った。新聞にも掲載し、ビラも配った。しかし、妹は見つからなかった。


 生きているのか、死んでいるのかもわからない。そんな妹を、アーロは今でも探し続けているそうだ。防衛五隊の隊長になったのも、シールド外の調査に出るため。そして調査の指揮権を得るため。アーロにとっては、エルフランドを守ることよりも、妹を見つけ出すことのほうが大切なのではないかと、フウガは語った。


 仲良くなれたらいいな。そう思った矢先の話に、すすきは寂しさを感じて俯いた。楽しそうに買い物に付き合ってくれていた時も、アーロはきっと自分に妹の姿を重ねていたのだろう。もし妹が生きていたら……そう思いながら接していたのかもしれない。


 妹の代わりにはなれないけれど、目が覚めたら、笑顔でおはようと言ってあげよう。


 静かに寝息を立てるアーロに、すすきは少し微笑んだ。

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