第16話 友人
エルフランドの治安維持を行う星兵会・防衛五隊。隊員になるには、モノリス魔法学校の星兵学部養成科を卒業する必要がある。そこは純血、混血、人間に関係なく入学可能で、通常は五年間の軍事教育を受けた後に各部隊へ配属される。
誰でも比較的簡単に入れる養成科とは別に、星兵学部には特魔科というコースも存在する。純血の魔法使いの中でもきわめて魔力が大きく、文武ともに優秀な者だけが通える場所だ。
防衛五隊の階級は全部で四つ。隊長一名、副隊長一名、隊長補佐三名、一般兵に分かれている。そして、特魔科を卒業した魔法使いは、補佐以上の役職になれるよう教育を受ける。隊長から補佐の中で空席が出来た場合は、特魔科の卒業資格を持つ者が幹部入りすることになるのだ。星兵学部特魔科は純血のエリート揃い。人間が入り込める余地はほぼないという話だった。
だが、例外は存在した。モノリス魔法学校には、更に魔法学部というものがある。育成科と特魔科に分かれていて、育成科は誰でも比較的簡単に入学できる。魔法に関する基礎知識を教え、魔術師を育成する場所だ。
そして魔法学部特魔科は、純血の魔法使いもしくは育成科の卒業資格を持つ混血、人間の魔術師が通える場所だ。より高度な魔法や、エルフランドの政治について学ぶことができる。卒業後は、国の制度や運営に関する仕事に就く者が多いそうだ。
魔法学部特魔科を優秀な成績で卒業したものは、星兵学部特魔科へ入る資格を与えられる。この方法であれば、人間でも防衛五隊幹部になれる可能性がある。
ただし、幹部になるということは、エルフランドのために命を捨てる覚悟を持たなければならない。そのため、わざわざ進学を選ぶ者は稀なのだそうだ。
モノリス魔法学校では、全てのコースが五年間の教育を受けるようになっている。魔法学校というだけあって、人間は肩身が狭い。魔力を開花させることが出来ずに自ら辞めていく者も大勢いた。そのような仕組みの学校で、魔法が全く使えない人間のフウガが、どうやって隊長までのし上がったかと言うと──。
「星兵学部養成科ってのは卒業前に戦闘試験があるんだ。そこで全員ぶん殴ってやったんだよ。隊長以外は拳で倒すことが出来た。魔法なんざなくても俺は戦えるって証明してやったんだ」
オムライスを頬張りながら、フウガはグッと拳を握ってみせた。フウガは魔力こそ無いが、殴り合いの喧嘩だけは強かったそうだ。
魔法学校の戦闘試験とは一体どんなことを行うのか。気になったすすきは、オムライスを掬いながら尋ねた。
「戦闘試験って何をするんですか?」
「まあ……試験っていうより、何でもありのトーナメント戦だな。隊員になるだけなら魔法が使えなくてもいいんだ。んで、その年に卒業予定の奴らを戦わせて、どの程度の戦闘能力があるかを見極めるんだ。多用する魔法や戦闘スタイル。あとは血統によって、どの部隊に配属されるのかが決まる」
「何でもあり……。それじゃあ、フウガ様は魔法を使ってくる相手に拳だけで勝ったってことですか? 一体どうやって……?」
「動きだよ」
鼻をフフンと鳴らしたフウガは、自慢げにそう言った。
魔術師が魔法を使う場合、本や杖もしくは武器などを媒体として利用する。魔法攻撃が来る向きとタイミングは、その動きから読み取れるそうだ。
媒体が必要ない魔法使いも同様。指示を出す方向を指差すなど、僅かな動きがある。それを見極めれば、力技でねじ伏せることも可能なのだとフウガは語った。
すすきは魔法を使う瞬間を思い浮かべた。ハクトや隊長たちを見る限りでは、動いた素振りは全くなかった。しかし、メディカが魔法を使った時は、人差し指で円を描く動作をしていた。フウガの言っている僅かな動きとは、あれのことなのかもしれない。
「僅かな動き……それを見極めて、フウガ様は勝ち上がっていったんですね。でも、隊長以外はってことは、隊長たちとも戦ったんですか?」
「ああ。トーナメントを勝ち上がった一位から五位の奴らは、最後に幹部と戦わされる。補佐と副隊長までは何とかボコボコにしてやったんだが、隊長にだけはどうしても勝てなかった」
フウガは悔しそうに言って、グラスの水を飲んだ。
隊長クラスになると、僅かな動きも見せずに魔法を使える者ばかりらしい。実際に、シンやアーロなどの隊長たちに動きは見られなかった。隙のない隊長たちは、一歩も動くことなくフウガを叩きのめしたそうだ。
フウガは手も足も出せずに負けた。だが、当時の第二部隊は隊長が悪魔になり、別部隊の隊長に殺害されるという事態が発生していた。そのため、空いた隊長の席に就きたがる者がおらず、第二部隊は隊長不在のままだったそうだ。
その時、当時副隊長だったアーロがフウガを気に入り、推薦したことで第二部隊の隊長に就任したのだとフウガは語った。
「アーロとは色々と喧嘩もしたが、今では良い友人だな。顔合わせりゃ一緒に飲みに行ってるよ」
ガハハと上機嫌に笑ったフウガに、すすきは少しホッとした。人間という生き物は、嫌われているばかりではないと思えた。人間にも気のいい奴はたくさんいる、アーロはそう言っていた。それは、本心からの言葉だったのだ。
空になった皿を見つめて、すすきは少し微笑んだ。そして、一度シンに会いに行ってみようと心に決めた。ハクトもきっと、それを望んでいる。
昼食を食べ、フウガが食後の一服を終えた後、二人は店を出た。外は明るく、爽やかな青空が広がっていた。
さあ、次はどこに行くか。そうフウガに尋ねられた時、二人の前に突然人影が現れた。見ると、空とは正反対で、どんよりとした顔のアーロがそこに立っていた。
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