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【連載中】五芒星ジレンマ  作者: 柚中 眸
第1章 知ること
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第10話 買物

 干してあった服は、今も軒下で風に揺れていた。よく見ると、もともと履いていたスニーカーも、壁に立て掛けてあった。どちらも綺麗になって、もう充分に乾いている。さっそく服を取り込もうとして、すすきはチラリと振り返った。察しが良い人なのか、アーロはこちらに背を向けて待ってくれていた。


 防衛五隊の隊長は全部で五人。今そこにいるアーロは第一部隊の隊長。そして、あの人間嫌いなシンは第三部隊の隊長。残る三人の隊長は、まだ顔も名前も分からない。今後、知り合う機会があるのだろうか。一体どんな人たちなのだろうと想像を膨らませながら、すすきは急いで服を取り込んだ。


 手持ちの袋が無かったため、ロングスカートを縛って袋代わりにした。その中に、トップスや下着や靴を突っ込む。この際、皺になってしまうのは仕方がない。とにかく持って帰ることが優先だった。


「アーロ様、お待たせしました」


 まとめた服を持って声をかけると、アーロが振り返った。


「うん。用事はそれだけ? 他に行きたいところは?」

「あとは、生活に必要な物を買いに行こうと思ってました。カーテンとか、布団とか。そういうのを売ってる店を知りませんか?」

「それなら4区でも揃えられるから、知ってる店を紹介するよ。また変なのに絡まれても困るし、一緒に回ろうか。たくさん買い物するなら、荷物持ちも必要でしょ?」

「ありがとうございます。でも、隊長って忙しいんじゃ……」


 人間に構っているほど隊長は暇じゃない。シンはそう言っていた。


 このまま買い物に付き添ってもらえるのはありがたい。どんなに荷物があっても、アーロがいればひとっ飛びで時計塔まで帰れるだろう。だが、仕事の邪魔をしてまで頼るのは気が進まなかった。


 困り顔で唸るすすきに、アーロはひらひらと手を振って見せた。


「平気平気。隊長がいない間も、副隊長や補佐たちが動いてくれてるから。それに僕は調査から戻ったばかりだし、多少遊んだって許してもらえるよ」

「それなら……よろしくお願いします」


 すすきが頭を下げると、持っていた服をヒョイと取り上げられた。どうやら本当に荷物持ちをしてくれるようだ。身軽になったすすきは、アーロと並んで4区の街なかを歩きはじめた。


 店に向かう道すがら、アーロは防衛五隊について少し教えてくれた。


 防衛五隊の主な隊務は、エルフランドの治安維持。国内を見回りながら、犯罪の取り締まりや発災時の対応を行っている。シールドを破壊しようとする悪魔がいれば、外に出て戦うこともある。しかし、一般兵が積極的にシールドの外に出ることはない。ほとんどは副隊長や補佐の指揮命令下に置かれていて、シールドの内側を守るという役目を担っている。そのため、隊長が不在でも隊務に支障が出ることはないそうだ。


 それとは別に、シールドの外側を調査するのも隊務の一つとなっている。こちらは隊長が指揮を執っていて、調査に同行出来るのは限られた者だけ。悪魔の情報を集め、元の世界を取り戻すことを目的として動いているそうだ。


 シールドの外側と聞いて、黒い化け物の姿がすすきの脳裏にフラッシュバックする。ゾクリと身を震わせながらも、すすきは好奇心に従ってアーロに尋ねた。


「悪魔の情報を集めたら、あの暗い森も元に戻るんですか?」

「おそらくね。僕たちは、世界を闇に染めた元凶──始祖の悪魔というのを探してるんだ。そいつの息の根さえ止めれば、シールドの外でも生きていけるようになる。今は僕と入れ替わりで、ソピアちゃんが調査に行ってるんじゃないかな」

「ソピアちゃん?」

「まだ会った事ない? ソピアちゃんは第四部隊の隊長。まあ、すすきちゃんならそのうち会えると思うよ。シンに負けず劣らずの頑固者だけど、面白い子だから仲良くしてあげてね」

「は、はい。頑張ります」


 すすきは顔を強張らせて返事をした。


 自分のやるべき仕事は、エルフランドの行く末を見守り、その記録を作ること。何をどうすればいいのか、具体的な話は無かった。だが隊長たちと仲良くなっておくのは、記録を作る上でも重要なことだろう。


 第一部隊と入れ替わりで、シールド外の調査に出掛けた第四部隊。隊長の名は、ソピア・キルヤスト。防衛五隊初の女性隊長で、大人しそうな見た目とは裏腹に負けん気が強い人らしい。


 どんな顔で、どんな声で……想像が膨らむごとに緊張で胸が高鳴った。どうか怖い人じゃありませんように。心の中で手を合わせながら、すすきは祈りを捧げた。


 話をしているうちに目的地に着いたようで、アーロが小綺麗な店の前で立ち止まった。扉を開けたアーロに、どうぞと促される。遠慮がちに店内へ足を踏み入れると、寝具やカーテン、絨毯などがズラリと並んでいた。


 無地から柄物まで様々な種類があり、見ているだけでも楽しくなってくる。あれこれと見て回るうちに、展示されている布団の中から、気になる物を見つけた。


 すすきが触れたのは、ふわふわと柔らかい羽毛布団。桃色の可愛らしい生地に、沢山のフリルが付いている。こんなので寝起きするなんて、まるでお姫様だ。そう思いながら、すすきはふと値段を見た。木製の値札には、二十万マルカと表示されている。


 これが高いのか安いのかわからない。すすきはハクトに貰った皮袋を開けてみた。中には紙幣が三十枚、丸めた状態で入っていた。アーロに尋ねたところ、全て一万マルカの紙幣だそうだ。ということは、手元にあるのは全部で三十万マルカだ。


 現在エルフランドで流通している紙幣は、一万マルカと千マルカの二種類。硬貨は一・十・百の三種類だと教えてもらった。使い方を聞くと、元いた世界とほとんど変わらなかった。


「つまりハクト様は、仕事もしてない私に三十万円くれたってことですか?」

「エン? ……まあ、そういうことになるね。でも、貰ったなら気にせず使うといいよ。ハクト様はいつも時計塔に引きこもってるから、全然お金使わないし。遠慮したらかえって嫌がると思うよ」


 そう言われて、すすきは改めて値札を見た。布団だけで二十万マルカ……買えない訳ではない。だが実際に自分が寝ることや、手入れすることを考えて、もっと安い物でいいという結論に至った。


 すすきは、またしばらく店内を眺めた後、寝具一式にカーテンと絨毯を購入した。色は全てグレーで統一し、出来るだけシンプルなデザインの物にした。選んだ理由はただ一つ、安かったからだ。


 結局、合計額は十万マルカを少し超えてしまったが、必要な物は購入できたので満足だった。


 アーロに案内されて、その後も色々な店を回った。あまり買い過ぎると荷物が増えてしまうので、替えの服は日を改めて探すことにした。ひとまずランプとマッチ、お腹が空いた時の為のパンやクッキーなどを購入する。増えていく荷物がどうなっているかというと、全て絨毯に乗せて運ばれていた。アーロが魔法で浮かせているため、重さなど気にせず4区の街なかを歩くことが出来た。


 途中でカフェに寄って足を休めたり、アーロは何かと気にかけてくれた。なんだかデートをしているようで気恥ずかしくなってきた頃、すすきの背中に不機嫌そうな声が掛けられた。


「人間がこんなところで何をしている?」


 振り返ると、第三部隊隊長のシンが、眉間に皺を寄せてこちらを見下ろしていた。

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