第一話 兎の苦労
勉強を頑張って、ゲームで息抜きして、指定校推薦を貰い自分のレベルに見合わない大学に行き、なんとなく将来は普通に生きていけると思っていた。
だんだん勉強についていけなくなり、必死に睡眠時間を削って頑張ることに徐々に疲れを感じ、最後にやる気がなくなりついに不登校に。
罪悪感と後悔から家にはほとんど帰らずに、漫画喫茶に入り浸るようになった。
「はぁ、嫌なこと思い出しちゃった」
スマホの画面が光って、軽快な音と共にメッセージが届く。
(兄ちゃん今日はかえってくるのー?)
帰るとしても今日は夜遅くだろう。
両親と顔を合わせることはまだ気まずいから。
(夜には帰る)
「君さ、今日帰る場所ないの」
にやついた小太りのおじさんが値踏みするかのようにじろじろと眺めてくる。
全身を氷で撫でられたかのような寒気と虫が腕を這うような強烈な嫌悪感が湧き上がる。
「俺、男なんで」
「そんなに、かわいいのに男なわけないじゃん、てか声かわいい」
「チッ、そういう種族なんで」
「嘘とかいいから、てか兎って年中発情期なんでしょ、相手してよ」
変質者が腕を掴んでくる。
その瞬間に昔の嫌な事が湧き上がってくる。気持ち悪さと恐怖が身体を支配して、心音が早鐘を打ちまるで石になったかのように動けなくなる。
「私の連れになんか用すか?」
「「え?」」
大きな影に包み込まれる。まるで山かと思うような大きな女性がこちらを見下げていた。