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第十九話 生命は、こんなにも美しい


 わたしの名前はショウという。


 実は一度死んで、この世界に転生を果たしている。

 いわゆる転生者というやつだ。


 だが、せっかく転生したというのに、これから最後の時を迎えてしまうのだ。

 

 余命は約一日。


 この世界に生まれてからまだ二週間程だというのに。

 わたしはあと、一日しか生きられないのだ。


 なんて短い人生だ。まるで蝉ではないか。いや、蝉は必死に鳴いて子孫を残すために頑張って短い生を生きるが、それに比べてわたしはどうだ。まるで後世に残すものもなく消えてしまうのだ。


 はたして、わたしは本当に転生した意味があったのだろうか……。



「そんなのいいから早く行ってきなよ」


「なんですかそんなのって! 生きる意味ぐらい考えたっていいじゃないですか! こっちは死地に赴く覚悟なんですよ!」


「死ぬ可能性がないのに死地とは言わないよ。ほら、行った行った」


 ぐぬぬ……。どうしてこの人はこうも淡白なのだ。少しは人の気持ちを汲んでくれたっていいじゃないか。


「私が死ぬ前に絶対助けてくださいよ」

「わかってるって」


「ショウ様、心を強くお持ちくだいさいね。ショウ様なら必ず為果(しおお)せられます」

「ありがとう、チグ。私の味方はチグだけだよ」


 私のかわいい豚さんはなんていい子なんだ。オドロさんも少しは見習ってほしい。


「……じゃあ、行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

「お気をつけて」



 * * *



 さて、いつものごとく虚無空間まで来て、歌を歌い、適当にドラマや漫画なんかを頭で思い出しているわけだが、限界はくるものだ。


 これが瞬間記憶能力者とかだったら、ずっと頭の中でドラマでも漫画でも再生出来るんだろうか。まあでもあの能力はかなり脳に負担がかかるみたいだし、忘れられないというのは相当に辛いことと聞いたことがある。わたしなんかからすれば羨ましいと思ってしまうが、当人にとってはたまったものではないだろう。


 では神様ならどうか。わたしの知っている神様はオドロさんとチグだけだが、二人とも見た目は生物だ。心肺機能もあるから、当然脳だってあるだろう。


 だが、それで生命維持をしているわけではない。生命維持は神力だ。ということは通常であれば記憶は脳に依存するものだが、神様の記憶は神力依存だったりするのではないか?


 仮にそうだとすると、神力が多い神様は記憶力がよく、神力の少ない神様は記憶力が悪いということになる。まあそんなことないか。そもそも神様を生物の枠組みで考えることがナンセンスだ。


 わたしの神力が生命維持出来るくらい溜まったときに、身体がどう変化しているのか調べてみるのも面白いかもしれない。ちょっと楽しみだね。


 などと考えごとをしているが、どうしようかね。そもそも今どれくらい経って、残りがどれくらいの時間なのかもわからん。


 オドロさんはここで寝るのは難しいと言っていたが、本当にそうなんだろうか。まあ感覚がないからそもそも横になるということが出来ないけど。


 ……いや、本当にそうかな?


 五感は確かにない。でもそれは外部からの感覚がないだけで、身体の内部の感覚はある。集中すれば自分がどういう体勢なのかはわからなくはないのではないか?


 例えば歩いてみる。

 地面を踏んでいる感覚はないが、足を動かしているという感覚はある。まあここから出るときにいつも味合う感覚だね。無重力空間でただ足をバタバタ動かしているような、たぶんそんな感覚だ。


 つまり、骨や筋肉の動いている感覚がある。

 で、だ。わたしはこの感覚を強化する術を知っている。


 全身強化だ。


 今日の鍛錬で骨や筋肉に生力を纏わせたときにそれを感じている。あれをやっている状態でずっと歩くというのはメチャクチャきついが、動かない状態であれば、わりかし保たせる自信はある。


 全身強化をすると、おそらく横になるという体勢を作ることが出来る。


 ものは試しだ。やってみよう。


 心臓に集中して生力だして、ぐるぐるからのピタっと。

 うん。立ってるね。わたしは今間違いなく立っている。重力もなんとなくわかる。


 この状態からまずは座るか。膝を曲げて……しゃがんで……、お尻をつかせる……と。よし、お尻が地面についている感覚はないけど、体勢的には座っているね。この状態から真後ろ…は危ないから、横だな。横に転がろう。身体に対して腕と手の相対的な位置がわかるから、お尻と同じ高さのところに手を持っていって、ゆっくり体重を預けていく。


 できた! 今完全に横になってる。これで足を伸ばして、仰向けを作れば……。

 おお! 寝てる! わたしは今寝てるぞ!


 よしっ! 身体強化をといて、おやすみなさい……。


 ……


 !?


 なるほど……。これは確かに寝れないわ。わたしが完全に甘かったな……。寝るっていうのは()()()()()()()()()()だ。そんな状態でこの空間に居たらすぐに恐怖が押しつぶしてくる。そりゃ心力強くないと無理なわけだね……。


 くそぅ。せっかく体勢は寝れるように出来たのにな。何かいい方法ないかな。寝ていても心を強く保つ方法が。


 そもそも心、心力って生力に比べてわかりづらいんだよね。生力は体感としてわかる。実感がある。じゃあ心力はなにかしら実感することがあるのかと。

 心力は魂の力。精神に影響するものだ。物理的な実感はまずない。だから実感するとしたら感情由来のものだ。たとえば恐怖に打ち勝つみたいな……。


 ……打ち勝つ? そもそもわたしがここにいる理由は心力を()()させるためだ。心力の強化が目的ではない。いや一応目的ではあるのだけれど、強化は副次的なものであって、大目的は安定だ。


 じゃあ安定とはなんだ。


 安定しているということは、まあ普通に考えれば、揺らがない、動かない、そんなところだ。何が揺れている? 心力の元は魂だ。つまり魂が不安定で揺れているということだ。


 私の魂は今どうなっているんだ? 魂はどこにある? どうすれば感じられる?


 イメージ的には心臓あたりか。でも心臓で感じ取れるのは生力だ。生力は(はく)だから魂ではない。


 ……いや、魂と魄は一対のものだ。確かに別物だが、"魂魄"と一括(ひとくくり)にされる。たぶん近いところにある。そもそも心なのだから、心臓で感じ取れるとみて間違いない。……と思う。


 心臓に集中してみよう。きっと生力とは別のやつが感じ取れるはずだ。


 ……


 ……


 ……?


 ……ああ。


 揺れてるわ。

 

 メッチャ揺れてるわコイツ。気づいてしまえば生力、魄なんかよりよっぽど感じ取りやすいわ。なんでこんな主張激しいやつがわからなかったんだろ。


 わたしは何か色々考えて、恐怖を紛らわそうとしていた。たぶん、それも悪くはないんだろう。でも、一番は何も考えない、()()()()()()ことだとオドロさんは言っていた。無にするというのは()()()()()()()()()()ということだ。


 とりあえずイメージするのは凪だな。今コイツは嵐でバシャバシャ波打ってるから、その波が徐々に弱まって、水面が完全に平坦になるイメージだ。


 ……


 ……


 ……


 なるほど。これは恐怖なんて感じないわ。そもそも恐怖は感情の一つだ。外的なものじゃない。恐怖だけじゃない。ちゃんと揺らぎを止めてあげたら()()()()()()


 たぶん通常は感情があるから、その時その時で大なり小なりの揺らぎがあるんだ。でもわたしの魂は常に揺らぎが大きかったんだ。それに気づいた今なら、普通の人並みに抑えらる。


 というか、心力を安定させるのにこれほど適した空間は他にないわ。外的要因が一切ないからね。しかも飲まず食わずで睡眠いらず。完全に魂だけと向き合える。そら三日も居れば安定するわ。


 なんだよ。全然怖くないじゃんここ。むしろ最高な環境じゃん。もっと早く気付けばよかった。



 * * *



 ……


 ……


『ショウ』


 ……?


『ショウ』


 ん? オドロさんか。もしかして一日経ったのか?


『もう、出てきていいよ』


 はいはい。わかりましたよっと。

 というか今私寝転がったままだったな。立っている状態にしないとね。



 ――



「おかえり」

「お疲れ様で御座います。ショウ様」

「ただい…ま……?」


 なんだこれ? いや、なんだ()()は……? これは……。


「ふふっ。景色が全然違うでしょ」

「オドロさん、これって……」


 私は今まで鬱蒼とした山の中で過ごしていた。木漏れ日が差し込んで綺麗だな、というような普通の山だ。



 でも、今私の目の前に広がっている景色はまるで違う。



 木が、葉が、草が、()()()()()



 "輝いている"という表現は正しくないのかもしれない。


 なんと表現すればいいかわからないのだ。


 温かい光に包まれているというか……。



「これが、"()()"だよ」


「これが……生命……」



 美しい。


 ただただ、美しい……。



 オドロさんが私の目元に触れる。


 泣いているのか? わたしは……。涙が……勝手に……。


「生命は綺麗でしょ」


 ああ、

 そうか、

 これが、


「はい……。すごく……、すごく、綺麗です…」



 これが、"()()()()()"か。



「でも、どうして急に……?」


「ショウ様はどれくらい神域に居らっしゃたか、ご存知ですか?」

「どれくらいって、一日じゃないの?」


「三日だよ」

「……えっ!?」


「三日居たんだよ。三日経っても出てこなかったから、私が呼んだの」

「でもオドロさんは一日って……」


「一日()()()()()とは言ったけど、一日で()()()()とは言ってないよ」


 えぇ……。


「だから、今までみたいに勝手に思念送ることもないよ。完全に安定したね」

「本当ですか?」

「うん。本当」


「チグも私が思っていることわからない?」

「はい。まるで別人のようですよ」


 まじか。


「心力が安定したから、生命が輝いて見えるんですか?」

「ううん。それだけじゃないよ」


 え


「感じるでしょ。()()()()


 ……!?


「神…力……」

「そう。神力だよ。心力が安定して、神力が使えるようになった。生命との橋渡しができるようになったってことだよ。だから生命を感じられる」


 ああ、これが神力か……。すごい……。生力とも心力とも違う。これが、神様の力か……。



 私はこの日、神力が使えるようになり、名実ともに亜神となった。


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