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第十八話 仮想筋肉はまだ固い

(やっぱり食べ過ぎたな……。トイレ行きたいけど……)


 わたしは今布団の中だ。あたりを見回すが、薄ぼんやりとしか情景がわからない。今日は川の字で寝ている。真ん中がわたしで、左右にオドロさんとチグだ。


 わたしは結局今日のことを負い目に感じて、チグを抱いて寝ることが出来なかった。チグは子豚さんサイズで、半纏(はんてん)かぶって寝ている。


(暗くてトイレにいけない……)


(トイレ)行きたいの? 付いてってあげるよ』


 バレてるわ。


 まあそらバレるよね。わたし心の声ダダ漏れだもん。というか今オドロさん口に出して喋っていないね。わたしに直接思念を送っている。受け取る側ってこんな感覚なのか。


(すみません……)

『全然いいよ。ほら、おいで』


 オドロさんが手を握ってくれた。えへへ。ずっと握っていたい。


 そういえば生力で夜目が利くようにできるはずだ。やってみたいけど全身強化が先だから、今はまだ挑戦しないほうがいいだろう。


 居間を経由して廊下を渡り、トイレとお風呂の入り口まで一緒に行く。


「ありがとうございます。ここで大丈夫です。向こうは電気あるんで」

「うん。じゃあここで待ってるから」


 申し訳ない……。



(ふ~~~~)


 いやートイレってなぜか落ち着くよね。まあ人によるだろうけれど。なんかこの広さが絶妙な気がする。

 オドロさんの神域があの洞穴なら、わたしの神域はこの謎空間だな。なんだかんだいって今までずっといた場所っていうのは安心感が違うよね。


 とはいえ、この空間は<(ことわり)>に反して作ったものだから、いずれ使わないようにしたほうがいいかもしれない。まあ、そもそもわたしが生きるのに必要な神力が溜まったら必要なくなるのだけれど。あ、でもお風呂は入りたいよね。お風呂は日本人の心だからね。


 それを考えると、わたしの神力が溜まって、この空間がいらなくなったら、この場所に大きなお風呂を作るのもいいかもしれない。サウナ付きのやつ。<理>に反せずに作れないかな。


 いや、そもそもわたしがこの家に居るのって心力が安定するまでじゃなかったか? そのあとは旅の薬師と幽鬼の祓除(ばつじょ)の手伝いを―みたいなこと言ってた気がする。

 あれ? 旅云々は転移ができるようにってときだっけ? わからなくなってしまった。


 まあいいや、あとでオドロさんに確認しよう。


 しかし今日はチグに本当に申し訳ないことしてしまったな。早くツルスベの肌になりたくて無茶をしたっていうのは嘘ではないのだけれど、それだけが理由で無茶したわけじゃないんだよね。もう一つ理由があって、あそこで全身強化ができるようになったら、チグも一目置いてくれるかなと思ったんだよ。生力の扱い上手いって褒めてくれたし。


 まあ完全に裏目に出てチグに運んでもらうことになったけど。

 ここがね。やっぱりモヤッとするんだよ。家に帰り着いたとき、オドロさんがわたしに生力分けてくれたけど、それってチグもできるはずなんだよね。そもそもわたしの生力使えるようにしてくれたのはチグなんだから。


 仮に帰る前に生力を分けてもらっていたら、わたしは自分の足で帰れて、チグに運んでもらうということを煩わせることはなかった。


 でもチグはそれをしなかった。


 つまりチグからすれば、わたしは動けない状態のままのほうがよかったってことだ。

 たぶん、生力分けてもわたしが言うことを聞いて、下山するか確証がもてなかったんだと思う。


 ()()()()()()()()()ってことだ。


 まあそりゃそうだよね。師匠(チグ)の言うことを聞かなくて弟子(わたし)は倒れたんだから。


 いくら全身強化ができるようになったところで、言うことを聞けない弟子なんて信用されない。チグには誠意をもって対応しないといけないのに、完全に今はマイナスだよ……。

 明日からは絶対にチグの言いつけを守らないと。信用ってなかなか回復しないからね……。



 あっ! 考え事しすぎて長居してしまった。オドロさんが待ってるのに!


 ――


「すみません、おそくなりました……」

「別にいいよ。邪魔されずに考え事したいことってあるもんね」


 バレてるわ。


「わたしの思念ってどれくらいの距離まで飛んでるんですか?」

「ん? 普通に会話するぐらいの距離だよ」

「あれ? じゃあなんでわたしが考え事してるってわかるんですか?」

「顔にですぎ」


 そういうこと……。


「ほら、戻るよ。明日は大変だよ?」

「ですね……」



 * * *



 朝ごはんもそこそこに生力の鍛錬開始である。今日はハードスケジュールだ。


(心臓に集中して……生力を出して循環させる……っと)


 よしよし。このぐるぐる回すところまでは大丈夫だね。このあとゆっくりしていって止める。……ここだ。この止まっているのを維持する。イメージ的には皮膚にペッタリ貼り付ける感じかな? うん、いい感じかも。


「やはりショウ様は生力の扱いがお上手ですね」

「そう……かな……? でも……ここから……動け……ない……っおふっ」


 うーん。止めるとこまではまあなんとかって感じだけど、この状態で動くのが出来ないんだよねー。


「そうですね……。今はどうなような感覚で生力を止めていらっしゃいますか?」

「皮膚に貼り付ける感じかな。身体の中にあるイメージ持つと、心臓に戻れる感覚をもっちゃうから、身体の外側にあるイメージでやってる」


「左様でしたか。身体強化の基本は体自身ですので、最初は内部の感覚を持たれたほうが良いですよ。皮膚はその延長線上ですね。完全に外部で操るのは中々高度な部類になりますゆえ」

「そうかぁ……」


 身体の外側にあるイメージは良くないってことか。


「しっかり段階を踏んだほうが良いですからね。今は内部で操ることを考えましょう」

「わかった。ちなみにチグはどういう感覚で生力を操ってるの?」


「私はやはり血液の感覚で御座いますね。血管が骨や筋肉を覆うような感じ、と言ったら良いでしょうか」

「……なるほど!」


 そうか、骨と筋肉ね。最初は心臓から溢れ出してきて血が循環する。そのあと体いっぱいに広がったら、その生力自体が骨や筋肉だと思えばいいのか。"止める"っていうのを"体全体で固定する"っていう感覚でいたから難しかったんだ。


 よしよし。今度はできるような気がするぞ。


 心臓からだして……回して……止める……ただイメージは骨や筋肉だ。骨や筋肉を覆う感じで……うん、心臓に戻らないし、これだと身体を動かすのに支障もないはず。


「チグできた! ありがとう~!」

「さすがで御座いますね。ではゆっくり歩いてみましょうか」


 ……身体が重い。でも動きはする……。なんかロボットみたいになってないかこれ?


「最初はそのような感じで御座いますよ。これを何回も繰り返して身体に馴染ませるのです」


 馴染ませる……ね。なるほど。今は慣れてないから動きづらいけど、いずれは骨や筋肉そのものと同じようになるということか。


「ではそのままこの家を一周しましょう。今のショウ様にはそれくらいがちょうど良いと思いますので」

「わかった」


 一周ね。一周。今日はちゃんと守るよ!


 ――


「疲れたよ~~。今日はもう無理だよ~~」

「何言ってるの。今日はこれからが本番だよ」


 私はいま完全にへばっている。居間に大の字でごろんと寝転がっているのだ。行儀なんか知ったことではない。家一周があんなにきついとは思わなかったよ……。


昼餉(ひるげ)が出来ましたよ。朝はほどほどでしたので、お汁に鹿肉を入れました」


 お! やったね! 昨日あれだけ食べたけど、体動かしたから全然食べられるよ!


「これ食べたら洞穴に行くからね」

「わかってますよう……」


 あ、昨日思ってたこと聞いておかないと


「ねえオドロさん、この家に居るのって心力が安定するまででしたっけ? そのあとわたしの神力が生きるのに必要な分溜まるまででしたっけ?」

「心力が安定するまでだよ。そのあとは行商しながら幽鬼祓って神力補充の予定だよ」


 やっぱそっちか。お風呂とトイレどうしよう……。


「ああ、その心配してたの。それくらいだったら私が清めてあげるよ。いつも服にしているのと大差ないからね」

「あ、そうですか? ありがとうございます」


 というか服の洗濯どうしているのかと思ってたけど、神力で清められてたのか。


「服だけじゃなくて自分にもかけてるけどね。汚れや埃はどうしてもついちゃうから」


 なるほど。そりゃそうか。いくら老廃物がないっていっても外的なものはあるもんね。


「ああ、でも行商行く前にある程度ここで薬の知識は身につけたほうがいいね。最初は転移ありきの簡易行商にしようか」

「簡易行商って、一昨日オドロさんが出かけに行ったあれですか?」

「うん。あれだよ」


 となると心力安定したあと、もうちょいこの家に居るのね。


「じゃあごはん食べようか」

「はーい」


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