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第十七話 やらかした

「只今戻りました」

「おかえり。……ってどうしたの? その背中?」


 『その背中』というのは、即ちわたしのことだ。チグは今大きめの豚さんになって、その上にわたしが乗っている。いやまあ乗っているというか寝そべっているといったほうが正しい。鞍にでもなったかのようにうつ伏せの状態だ。


「身体強化の鍛錬をしていたのですが、全身強化がまともに出来るまで頑張ると言われまして……」

「ああ、やりすぎたの?」

「左様で御座います」

「あはははっ! さすがはショウだね。あははっ!」


 くそぅ。言い返せない……。しゃべることすらままならない。こんなことになるとは思わなかったよ……。


「チグは止めなかったの?」

「いえ、半刻(約一時間)程経ったときに、そろそろ戻りましょうとは言ったのですが……」

「ふふっ。聞かなかったんだね。自業自得だよ。その様子だとおにぎりも食べてないんでしょ? ずっとやってたらそうなるよ。あはははっ!」


 さっきから笑い過ぎだよ! もう……。でもぐうの音もでないとはこのことだよ……。確かにあのときチグは止めてくれたし、おにぎりくらい食べたらと言ってくれた。でもわたしは早くツルスベの肌になりたかったし、このあとどうせ肉を食べるからと無茶してしまった。うぅ。チグごめんよぉ。


「まあでも普段は鍛錬いやいや言ってるのに、そこまでやる気になってくれるのは嬉しいかな。ほら、こっちおいで。って言っても動けないか」


 あ、チグが傾いてわたしを落とした。いや、落ちてはないか。半回転して仰向けの状態でオドロさんがキャッチした。俗にいうお姫様抱っこというやつだ。……首に力が入らなくて危うい方向に曲がってないかこれ? あ、やっぱりオドロさんはいい匂いだね。ふへへ……。


「よしよし。私の生力を分けてあげるね」


 ……おぉ?


「ほら、これで立てるでしょ」


「あ、ホントだ。立てます。声も出ます。すみません、ありがとうございます」

「うん。ほら、ごはんにするよ。お肉だよ」


 やったね! やっとお肉にありつけるよ~! でもその前に……


「チグ、ごめんなさい! チグは止めてくれたのに、わたしが聞かなかったから……」

「いえ、そんな。お顔をお上げ下さい。私もこうなることを先に言うべきでした」


 でもここでチグの優しさに甘えるわけにはいかないよ……。悪いのはわたしだ。


「まあまあ、お互い様ってことでいいでしょ。ほら手洗って。せっかくの鍋なんだから」


「わかりました……」


 ……くよくよしてもしょうがないか。明日は頑張りすぎないように頑張る!


「そうそう。切り替えが大事だよ」


 よし、鍋食べるべ!



 * * *



(やばい……食べすぎたかもしれない。お風呂入ったら戻すかも。先に入るべきだったな……。今夜はシャワーで済ませるか……)


 しかしまあ鹿肉うますぎるよ。まじで。こういうジビエ料理ってクセが強いって聞いたことあるけど、全然そんなことなかったし。処理がいいのかな? わからん。とにかくうまかった。

 チグが鍋をゴシゴシ洗ってるそばに、使ってない肉が網に段々に入って吊るされている。干し肉ってあんなので作れるのか。ずいぶん簡単だね。明日には出来るのかな?


「干し肉は二、三日おかないと出来ないから、明日はまだだよ。まあ普通に料理してもいいけど、お昼に持っていけるようにしないとね」


 確かに。昼に持っていけるのっておにぎりと漬物くらいだからな。干し肉があれば随分違うかも。というか本来は三日間あの洞穴で過ごさないといけないんだよな……。


「ねえオドロさん。神域って五感働かないけど、三日居るときって食事とかトイレどうすればいいんですか?」

「あの中だと空腹とか尿意とかは感じないよ。あと睡眠もいらない」


 そうなのか? 確かに空腹は外に出てからだったかも。というか……


「あそこ寝れないんですか? どんな拷問ですか……」

「寝れないじゃなくて、いらない、だよ。寝たければ寝てもいいけど、無理だと思うよ。あそこで眠れるってことは、それなりに心力が強くて安定してるってことだから」


 そういうものなのか。


「三日間寝ないで居るほうがはるかに簡単だよ。まあそれが出来たら、今度はあそこで眠れるように鍛錬するのもいいかもね」

「なるほど。次の段階の鍛錬ってことですね」

「そうなるね」


「ちなみに今のわたしの心力と生力って、管理者レベルの神様からしたら、どれくらいのものなんですか? チグは生力は強いって言ってくれたんですけど、指標がないから今一わからないんですよね。まあ圧倒的に不足しているっていうのはわかっていますが」


「うーん。心力と生力は不足っていう概念じゃないんだけど。まあ敢えて言うなら、そこにある水瓶(みずがめ)に桶で一杯だけ水を入れたくらいかな。心力も生力もどっちもね」

「……ちなみにどれくらいまでになれば管理者レベルなので?」

「もちろん満杯」


 ですよね……。……ん?


「心力も生力も同じくらいですか? わたしの心力って生力よりはるかに弱いと思ってました」

「そんなことないよ。ショウの心力は人を基準に考えたらかなり強いよ。心力が強くないと思念飛ばせないからね。ただ安定してないってだけだよ」


 あ、確かに……。安定してないとは言われても弱いとは言われてなかったかも。でもなんか弱いイメージがあるんだよな。なんでだろ。


「不安定だからそう思っちゃうんじゃない? 安定してちゃんと使えるようになれば、生力と同じように少しは自信がつくかもね」


 だといいけど。


「洗い物終わりましたよ」

「あ、チグ。ありがとうね」

「いえ、これくらい問題御座いませんよ。ところでオドロ様、明日からの鍛錬ですが、どうしましょうか。ショウ様が長く神域に居られるようになると、生力の鍛錬に時間を割くのは難しくなると思うのです」


 確かに。


「そうだねえ。ショウは今どれくらまであそこに居られそうなの?」

「たぶん五、六時間くらいかと。今はまだその先まで居られるような策がないです」


「三刻かあ。いっそのこと丸一日閉じ込めてみようか」

「六時間で限界だっつってんでしょうが!! 丸一日って四倍じゃないですか! なんでいきなりそんな飛躍してるんですか!?」


「でも今日は今までの十倍居たよ。へーきへーき。お肉も食べたし頑張れるでしょ」

 この『へーきへーき』モードは決定事項だ。最悪だ……。どう考えても肉と釣り合いとれてないでしょ……。


「大丈夫だって。死にそうになったらちゃんと助けるから」

「絶対助けてくださいよ……」

「うん。任せておいて」


 はあ……。鬱だ……。


「明日は水汲みなしで、朝に身体強化の鍛錬をしよう。お昼をここで食べたら洞穴に行くよ。そしたら身体強化で無茶もしないでしょ」


「わかりました……」

「畏まりました」


 まあ、そのスケジュールだと無理はできないね。でも閉じ込められる前にも鍛錬ってやっぱりこの人鬼だわ……。


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