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ゼロ世界の語り手と住人  作者: 椅稲 滴
4/5

ii-1

 なんとなく喉の渇きを覚えて、窓から差し込んだ光で青い部分が現れたり、そこよりいくらか暗い部分が消えたりしているうちに、しだいに目が冴えて眠れなくなってしまった。今は暗めの部分が現れている番で、ようするにそこはわずかな光に洗われかけている部屋の中だった。カーテンの隙間の、レースにかけられた制服に遮られていないところからはみ出た光が照らしたのは、2台のプラスチック製のイスと、ぼんやりと奥の壁、そして床に散らばったプリントと黒いリュックの一部だった。

 人生で初めての経験をするとき、人は少なからず興奮を覚えるけれど、今の僕がまさにそうだ。喉が渇いて目を覚まし、あまつさえ水を飲みに起き上がるなど、まったく新しい手触りだった。足触りは冷たかった。暖房は、

床までは温めてくれない。より入り口に近い方のイスは、僕のイスではないから、いまひとつ位置感がつかめないので、手で前方を探りながらぶつからないように注意して歩かなければならない。こういった経験ではないけれど、真っ暗なこの部屋を歩く、ということは何度もやったことがあるので、イスを避けてからドアノブをつかむまでの間は、少し歩く速さが上がった。

 部屋の外は寒かったが、つまづく要素は何もないので、階段下までの数歩をさっさと歩いて、階段の電気をつけた。直後に強烈な黄色の光が襲って、目を慣らすために薄目をこじ開けたけど、ぐにゃぐにゃとゆがんだ緑の光の環とめまいで、それがおさまるまで目を押さえて立ち眩んでいなければならなかった。まだ目は治っていなかったけど、右手で手すりをつかんで、段差に足をかけた。軋む音が立たないように気を付けたつもりだったが、階段は容赦なく軋んだ。父さんと母さんが目を覚まさないといいけど……。いつかのときは弾の中央を通って音が立たなかった気がしたからその通りにしたけど、全然音は鳴ったので、あるいは端だったのかもしれないが、13段あるるうちの6段めか7段めでそんな調子だったので、あとは思考を放棄して登った。

 一言付け加えておかなければならないのは、2階に着いたとき、僕の目は回復しきっていなかったということと、リビングの電気がなぜかついていたということだ。リビングの電気は階段のそれとは違っていて、なお明るくLEDで真っ白だった。よって僕は、照明はおろか部屋の中すらよく見えなかったわけだが、中に誰か居るらしい、というのは分かった。大方父さんか母さんなんだろうが、「おはよう」というのは変だし、それ以外にこれと言ってかける言葉も思い浮かばなかったから、そのよく見えない人物の前で茶碗を取り出して、それに水を汲んで飲んだ。—「こんばんは」 それが、その人物が発したらしき言葉のようで、問題は、その高めの男声に僕は心当たりがないことだった。

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