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ゼロ世界の語り手と住人  作者: 椅稲 滴
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 階段もかなり混んでいて、目の前の赤いチェックのシャツに近いな、と思い、手すりに触れたり触れなかったりしながら上った。

 左斜め前のだいぶ前、囲碁で言うところの大ゲイマくらいの位置に、最近よく見るショートボブの女子高生がいた。確信は持てない。なんて言うんだろう、ああいう髪の色を。音的には、あさまいろ、という感じで、茶色みのある黒だった。でもすぐ人に隠れて見えなくなった。

 改札をくぐり、定期入れをポケットに入れた。入れた、といってもこだわりがあって、定期入れの角から指を離し勢いよくポケットに落とす、というやり方で、特に、行きの向こうの駅と帰りのこちらの駅の改札で意識している。手の指先の動きを最小限にして、自然な手の()()を阻害しないように。

 上ったということは下りなければいけないわけで、階段の暗い緑色とともに、ヨガのようなポーズをした女性のなんだかよく分からない広告は、僕の脳に、見ればああ、と思うくらいには記憶されていた。

 駅の建物の外の道路では、傘を下げた人が往来していた。遠目に見える空は明るいグレーで、すぐそこの道は上に歩道橋があるので傘を差さなくても歩けるから、実際にいくらか道を歩いてみないと雨が降っているかどうか分からない。歩道橋が上に無い道の部分を歩いてみたが、降っている感じはしなかった。見えていないだけで、本当は少しくらい降っているのかもしれない。

 道路のタイルを数えながら(実際それは、数えるとしか表現しようのないことだ)、最近はとんとタイムスリップができなくなったと思った。いつかは、考えながら歩いているとき、周りの景色が無くなって、気がつけば家の前にいるということがけっこうあったのだ。それは、道すがらの信号でちゃんと立ち止まったのか、といったことが思い出せなくて、怖いような、この上なく面白いような体験だった。最近は、というか今も、大通りの並木の具合や、あの信号で待っている人の数を見たりしている。ああ、あの数でこの距離だと、ちょっと間に合わないね。

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