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Hermit【改稿版】  作者: ひろたひかる
番外小話
92/106

男達の深刻な悩み

久々書き下ろし作です。

前回に引き続き「モモンガのきもち」合体版。

 仕事上がりのいつもの居酒屋で、今夜は待ち合わせて飲む約束をしていた。

 一平と飲んでいるのは南美の恋人である高木真樹人、先日晴れて恋人から婚約者になった。

 彼は「できるリーマン」の見本のような男で、おまけに背の高いイケメン。その彼が会社の同僚である南美に惚れ込んで口説き落としたのだ。今や見ているこっちが口に砂糖をぎっちり詰め込まれた気分になるほどに甘く甘く南美を溺愛している。

 あの事件で心に傷を負った南美が真樹人と出会い今は幸せに笑っていることを、事件の当事者のひとりとして本当にありがたいと思っている。


 優と南美が親友だから、そのつながりで一平と真樹人とは知り合った。それから時折一緒に飲むようになって、今ではいい飲み友達となって「一平くん」「真樹さん」と呼び合う間柄だ。ちなみに真樹人の方が一平より年上なので、こんな呼び方に落ち着いている。


「婚約おめでとう、真樹さん」


 一平が言いながらビールジョッキを持ち上げる。向かいに座る真樹人もそれに合わせて冷たく曇るジョッキを持ち上げ、カチンと打ち合わせた。


「ありがとう」


 真樹人の顔は満面の笑顔だ。元々人当たりもよく笑顔でいることの多い真樹人だが、今見せている笑顔は普段とは違う、にじみ出る幸せ感が見える。一平はニヤニヤしながらジョッキを傾けた。


「真樹さんの顔見てるだけで胸焼けしそうに幸せなのがわかるなあ。ごちそうさま――あっ、今日のここは俺の奢りだけど」

「じゃあ素直に奢られておこうかな。でも俺より一平くんの方がいつでも幸せそうじゃないか」

「そりゃあ、まあ幸せですけど。でもつきあってもう5,6年経ってる俺達より真樹さん達の方が先にゴールインだもんなあ、はあぁ――ところで何頼みます?」


 つまみのメニューを開き、二人で目を落とした。退勤後で腹ペコの二人は浅漬け、焼き銀杏、焼き鳥盛り合わせ等々ガンガン注文していく。


「このくらいにしとこうか。で、何だいそのため息」

「だって俺達は優が大学卒業してから結婚するつもりですからね。真樹さん、式は来年のゴールデンウィークでしょ? 本当は俺だって早く結婚したいけどそう約束したからなあ」

「でも池田さん、来年の3月には卒業だろう?」

「そうだけど、卒業したら就職でしょ? 就職と同時に結婚なんて、さすがに大変すぎるからなあ。俺、待てるかなあ――真樹さんだって、本当はゴールデンウィークまでなんて待ちたくないんじゃないですか?」

「まあ、そうだね」

「ほらぁ」


 届いた浅漬けの蕪を一切れつまみながら「同類だね、真樹さんと俺」なんて一平が笑う。


「こうなると真樹さんところ、子どもも早そうだなあ。優が南美ちゃんの子と同級生になるといいなあ、なんて言ってたけど無理そうだなあ」

「いや、そんなことはないよ――すみませーん、ハイボールひとつ」


 真樹人が2杯目を注文する。一平のジョッキにはまだビールが3分の1ほど残っている。真樹さんピッチが速すぎないか、と一平は真樹人の取皿に浅漬けとねぎまを放り込んだ。


「ちゃんと食べながらにしないと胃にきますよ。んで? しばらくは新婚二人の生活を楽しみたいって奴ですか?」

「ああ、いや、その――実は少し悩んでるんだ」


 焼き鳥の串をつまんでぼんやりとそれを眺めながら真樹人がアンニュイそうなため息をつく。それを見ながら一平は焼き鳥でこれだけ艶っぽくなれるのもひとつの才能かも、と砂肝串にかぶりつきながら思った。


「へ、どうしたんですか? 南美ちゃんが可愛すぎて夜も日も明けないってのはもう散々聞きましたからね?」

「そうじゃなくて――いや、それはそうなんだけど――その、子どもが生まれたら彼女は育児が大変になるわけだろう? あっ、もちろん俺も一緒にやるけど」

「うん、そうですね」

「俺よりも子どもの方にウェイトがかかっちゃうわけで」

「うん――?」

「そう考えたらやだなあって」


 はぁ、とため息をつく真樹人は、どうも軽口を叩いているようには見えない。つまり、子どもの世話に南美がかかりきりになって自分を構ってくれなくなるのが嫌だと、そういうことだろうか。


「えっ、まさかのまだできてもいない子どもに嫉妬?!」

「いや、子どもが生まれたら絶対にかわいいよ? かわいがるよ? ただ南美と2人だけの時間が――俺、自分が怖い」

「またまた、そんな」


 一笑に伏そうと思ったが、いや待て十分にあり得るこの人ならと考えてしまったのは秘密だ。

 けれど一平はそこでふと我が身を振り返る。もし優との間に子どもができて、育児が忙しくて優は子どもにかかりっきりで、二人だけの時間が全然取れなくて。

 そうなった時、自分は真樹人の話を笑い飛ばせるだろうか――

 自分にもあり得る話なんじゃないかとひやりとする。


「真樹さん」

「ん?」

「飲みましょう」


 思わず日本酒を注文する二人だった。一体何をやっているんだか。



 そして数年後、真樹人と南美の間に女の子が生まれ、あの時の心配は何だったんだと文句を言いたくなるほどに娘を溺愛するパパになる真樹人。奇しくも一平と優の子どもと同級生となり、優と南美が喜ぶ未来は実はそんなに遠くない。

最終回っぽいけど最終回じゃありません。

まだ数話ございますので、よろしくお願いします。

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