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Hermit【改稿版】  作者: ひろたひかる
山猫は雑踏を走る
72/106

Side優(7)

「思い出した! あの時、清野さんと一緒にいた人だ」


 P7。


 その呼び名は、かつて優を実験体として捕えていた組織「⒕」での優の呼び名、いや、コード番号。

 優が組織から逃げ出して一平達にかくまってもらっていた頃、彼女は一度組織に連れ戻されたことがある。その時に優を連れ去ったのが当時組織のトップだった清野と、暗示かテレパシー能力の持ち主だと思われる若い男、萩原だ。

 今、優達の目の前にいる若い男とあの時の萩原の顔が脳内でぴったりと重なった。


「へえ、覚えてたんだな。にしても、どうしてあんたがこんなところにいるんだ」

「――」

「ま、いいや。ちょっと聞かなくていい話聞いちゃったみたいだしな、面倒だけど捕まえとかなきゃなあ」

「なにを――」


 萩原の言葉に危機感を覚えたまさにその瞬間、突然ぐらりと世界が回るような不快感が優を襲った。無理矢理脳みその中に何かが侵入して来るような嫌な感じ。以前組織に連れ去られた時と同じ、暗示か何かで意識を失わせようというのだろう。

 咄嗟に防御しようとしたが、意識は保てたものの頭がグラグラして体に力が入らない。


「優さん!」


 アスミが慌てて優を支えてくれたが、萩原は優の腕を掴んで無理矢理グイッと引き上げた。掴まれた腕と肩が痛い。


「萩原、その女は何だ? ――へえ、可愛い顔してるじゃないか、そっちのも」


 カエル男が優とアスミを見て下品な笑みを浮かべる。萩原はそれを面倒くさそうに見やり「とにかく」と優を投げ出した。


「俺の知ったこっちゃないですから、ヤろうが売っ払おうが中川さんの好きにすればいいですよ。ああ、ただこれだけは」


 言いながら銀色に光る輪を三つ、背負っていたデイパックから取り出した。優はそれに嫌というほど見覚えがある。捕まっていた時につけられていた超能力を妨害する装置、バリア・システムだ。これをつけられていると超能力が使えなくなるという代物、なぜそんな物を今持っているんだ、と疑問に思っている間に萩原は優の両手首と首に銀の輪を嵌める。とたんに優の世界ががくんと狭くなる。バリア・システムの効果はどうやら絶大なようだ。


「中川さん、死にたくなかったら絶対にこの首輪と手錠を外さないことです。この女は――正真正銘の化け物ですから」


 その言葉にじわり、と胸が痛んだ。組織に囚われていた頃、実験体として人ならざる扱いをされていた時の記憶が蘇る。アスミがそんな優を膝に抱き起こし、小さく震えながらぎゅっと抱きしめてくれた。


「おいっ、あっちで話し声がするぞ!」


 その時また離れたところから違う男の声が聞こえてきた。萩原とカエル男――中川がはっとしてそちらを振り向いた。


 森の中から出てきたのは、さっきジュンが監禁場所で倒した男達だった。先頭にいるのはピンストライプのスーツ、ありがたくない再会だ。

 ピンストスーツ男は萩原と中川を見るなり顔色を変えた。


「あっ! てめえは鮫島組の中川!」

「そういうてめえは十文字組の半田! おい半田、盗んだ物を返しやがれ!」


 どうやらこの二人は仲がいい訳ではないらしい。盗んだ物、ということは、さっき中川達が話していた「リスト」とやらのことだろうか。中川の言葉にスーツ男――半田がちらり、とアスミを見た。


「何の話だ? 証拠もないのに濡れ衣着せられちゃあ、十文字組として抗議させてもらわないとなあ」

「ふざっけるな! ちゃあんと目撃者がいるんだよ、も・く・げ・き・しゃが!」

「だがな、天地神明に誓ってもいいが、俺達のヤサぁどこを探してもそんな物は出てこねぇぜ。見つからなかったらどう落とし前つけてくれんだ、あぁん?」

「んな訳あるか!」


 男二人が怒鳴り合っているのを後目に萩原の視線は優とアスミに向いている。


「――なるほど、この女が十文字組から噂のリストをさらに横取りした、と。これか?」


 落ちていた優のバッグを拾い上げ、ごそごそと中をあさり始める。ハンカチ、手帳、傘、化粧ポーチ等が次々と地面に放り投げられていく。さっきジュンのバッグを咄嗟に隠しておいて良かった。もうひとつバッグがあるとは思わないだろう。優はアスミに支えられたままその様子を見ていた――のだが、アスミは我慢がならなかったらしい。


「や、やめてください! 女の子の持ち物漁るなんて、最低です!」

「うるせーな。ちょっと黙ってろブス」

「ぶ――!」


 この瞬間優のなかで萩原はサイテー男に決定した。


(女の敵! さいってー! 超能力さえ使えれば空の彼方まで吹っ飛ばしてやるのに!)

「やれるもんならやってみな――って、へえ、こっちか」


 萩原が優のバッグを放り投げ、アスミの後ろの藪に視線を移す。そう、優がさっきジュンのバッグを隠したあたりだ。


(そうだ、この人も感応系の超能力使うんだった。確か、薬を持って逃げ出したって蘇芳さんが言ってた。ってことは、この人は今現在能力者ってこと――私の考えてること、読み取ってる?)

「ご名答」


 茂みの中からバッグを取り出し萩原がにやりと笑う。


「これのどこかにリストが隠してあるんだな――おい中川さん、引き上げようぜ」


 名前を呼ばれた中川が振り返り、一瞬置いて会話の意味を理解した半田が「それを返せ」と萩原に駆け寄る。当然中川も含めてもみ合いになり、あっという間に静かだった森の中が混沌とした修羅場と化す。もうもみくちゃだ。

 半田が中川を殴り、中川が殴り返す。後から追いかけてきた子分達もお互い取っ組み合いのけんかを始める。アスミが優を庇って小さくなっているが、間近で始まった争いにただただ震えているのが伝わってくる。

 何とかこの場から逃げなきゃ、と焦るものの、こんな短時間では体が元に戻る訳もなく立ち上がることもできない。優も焦りが募ってくる。


「がっ!」


 殴り飛ばされた男が一人、アスミの目前に倒れこみ、ビクッとアスミの肩が跳ねる。その男に駆け寄ってきた他の男がつかみかかり、倒れこんだ男の腕が焦りで振り回される。


 がつっ!


「きゃっ!」


 振り回された腕がアスミの肩にぶつかる。


「あす……み」


 せめてこのバリア・システムがなければ。だがアスミは混乱していて、優はまだ動けない。そもそも外せそうにないけれど。


(誰か! せめてアスミさんだけでも)


 そう強く願って優がぎゅっと目をつぶった時だった。


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