プロローグ
拙作「Hermit」(完結済)の改稿版になります。
おおまかな筋は変わりませんが、全面的に改稿しています。
なお、1話あたりの文章量はかなりばらつきがありますことを先にお詫びいたします。
よろしくお願いいたします。
本日は2話同時投稿いまします。
雨が降り始めた。
ようやく色づき始めたアジサイに、ぽつりぽつりと水滴がかかる。
まだ夕暮れ時には早いのに、あたりは薄暗く、空は重たい鉛色。すぐに降るだろう激しい雨を予感させる。
一平は、頬にかかった雨粒をぐいっと手で拭った。
「やべ、早く帰ろ」
本当はもう少し早く家に帰っているつもりだった。大学から駅まで来てから、レポートの資料をサークルの部室に忘れてきたのを思い出し、取りに戻って電車に乗り遅れたのだ。
あいにく傘は持っていない。持って帰ってきた資料も図書館からの借り物、濡らすわけにはいかない。左肩にかけていた黒にブルーのライン入りのワンショルダーバッグを下ろし、着ていた濃いグレーの半袖パーカーになぐさめ程度に包んでみるが、どうもものの役に立ちそうもない。
「――しょうがない」
幸いすぐ目の前に神社がある。おあつらえ向きに、木の鬱蒼と茂った、人気のない小さな神社。頭よりも高く組まれた石垣の真ん中あたりに石段があり、そこを登りきると灰色の鳥居があって、まっすぐ神社へのびる参道がある。参道の左右はそんなに広くなく、あまり手入れがされているとはいいがたい植え込みと、一本の大きな杉の木が存在を主張している。
一平は石段を登って神社の境内に入った。幸い、境内には誰も人はいない。きょろきょろとあたりを見回し、杉の木のまわりの植え込みに目星をつける。急ぎ足で杉の木の所まで行くと植え込みを掻き分けて、奥に入った。
――と。
白いものが目についた。白い――手?
「?」
茂みの中には先客がいた。女の子だ。高校生くらいの髪の長い色白の女の子。少し明るめの色の髪がふわりと広がっている。乱れだ前髪が長い睫毛にかかっていて邪魔そうだ。
体も細くて、ちょっと触れたら折れてしまいそうな気がした。
そんな普通の、むしろかわいらしい女の子が茂みの奥に倒れているのだ。一平は驚いて、そっと手首に触れてみた。肌は冷たいが、脈はある。気絶しているようだ。
雨足が次第に激しくなってきた。雨粒が頬を、肩をぬらす。
一平にも、その女の子にも。