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廃人による心の穴

 キッスインザダークさんに連れられてきた場所には巨大な扉があった。

「ここがボスの部屋だよ」

「すっごく興味ないんですけど。私、男の人が連れ去られた場所に連れて行ってって言いませんでした?」

「いやいや、見張りの私が内部の事なんて知るわけないでしょ。ボスだったら知ってるから、あとは自分で頑張ってね」

「一緒に来てくれないんですか?」

 なんとなく、この人は面白がってどこまでも着いてきてくれるものだと思ってた。

「割りに合わないからね。一時のノリと勢いだけでこれまでの信頼がパーになるなんて、パーの人がやる事だよ。ゆうくんみたいなね。あ、でも依頼があれば引き受けるよ。割高だけど便利屋やってるからね。私の事はりんって呼んでね。バイバイ」

 そういうと、振り向きもせずにすぐに帰ってしまった。別に仲良しでもなければ、依頼したわけでもないから当然だし、いなくても全く支障はないけど、一人っきりでは少し寂しい。

 そんな寂しさにも負けずに私が扉を開くと、玉座に堂々と男が座っていた。名前はpawer。多分powerの誤字だと思う。いや、pawerって単語がないわけじゃないけど……どうでもいいや。

 あとこれもどうでもいいけど、NPCじゃなくてPCが玉座で待ってたって事は、格好つけるためにずっとここで待っていた事になる。本当どうでもいい事だけど、私が侵入してから大体十五分くらい経ったけど、その間何もせずに座って待っていたのか。

 端的に言って頭が悪い。なんだか、こんな人と一緒にいると私まで頭が悪くなりそうだ。早く用件を済ませてしまおう。

「私の要求は二つです。一つはこのギルドの解体。もう一つはRKさんの解放です。承諾していただけますか?」

「いいぞ。どうせそろそろ他のギルドと併合する予定だったしな。お前が倒したのはそれに合わせて足切りしようとしてた下っ端連中だ。逆に追い出してくれてありがたいくらいだ。あのRKって男だって、いるだけなら邪魔で仕方ない」

 思っていたよりスムーズに進みそうでよかった。でも、なんだろう。つまらなくてもいいから、せめて戦いたかった。肩透かしを食らった気分だ。

 そう思った事にバチが当たったのか、pawerはニヤリと笑った。

「だが、お前は違う。お前は俺ら全員で戦ったところで勝てないほど強い。そういう奴はいるだけで武器になる」

「つまり、RKさんを解放する代わりに、私がこのギルドに入れと?」

「話が早いな。どうだ?」

「くだらない戯言ですね。私が一度攻撃しただけで、あなたは泣きながらRKさんを解放したくなるんですよ。交渉なんて平等な立場がないと成立しないんです」

 私はクロスボウをpawerに向けて、トリガーに指をかけた。

「おお、おっかないな。俺は小心者だからな。そんな怖い事言われちゃ、盾がなきゃ気が気じゃないんだ」

 この男は玉座の裏からRKさんを引きずり出した。気を失っているようでぐったりしている。

 囮をとられるなんて、こんなピンチに陥った事は何ヶ月ぶりだろう。なんだか少しだけワクワクしている自分がいた。

 そしておもむろに気付いた。何故か私の広角が上がっている事に。

 なんだか自分が恐ろしくなって表情を真顔にしたけど、高揚が治らない。

「へへ。撃てば俺は確かに泣いて謝るだろうが、こいつは泣いて感謝する事になるぜ?」

 彼はフルダイブと確定している。しかも慣れていない様子の彼に、この一撃は耐えられるかどうか。

 私がどうしたものかとあぐねいていた時、男の背後に人影が現れた。それはこれまですっかり息を潜めていたももだった。

「ざんねーん。ももにかかればー、人質奪還なんて余裕なのだー」

 ももはこうなると最初から予想していて、ずっと姿を隠していたらしい。そう言えば潜入してから全く姿を見ていなかった。

 pawerがももに振り返るより前に、彼女は持っていたナイフを投げつけた……RKさんに向かって。

 すっかり衰弱していたRKさんは一撃でゲームオーバーになり、粒子になって消えた。きっと砂漠の街でリスポーンしているだろう。

 つまり、人質が居なくなった。これで心置きなく戦える。

「チクショウ! ならこいつが盾だ!」とpawerはどなってももの右手を荒々しく掴んだ。ただ彼女はそれも作戦の内とばかりに不敵に笑った。

「ばいばーい」と言って彼女は自由な左手で自分の首にナイフを刺した。

 簡単にゲームオーバーになった彼女は、RKさんと全く同じように消え去った。

 みんなと協力して戦うと、これまでと違って凄く楽しかった。心の穴に空いていた穴にピッタリ何かが嵌ったみたいで、達成感が押し寄せてきた。

 代わりに、相手は絶望感が押し寄せているようだけど。

「バカな!」

「バカはあなたですよ。仲間を切り捨てるなんてしないで、一緒に戦っていれば、RKさんを殺される前にももを殺せたでしょうね。いえ、それより前に、RKさんを連れ去らなければもっと穏便に済ませる事もできましたよ。いえ、そんな事よりもっと前の話ですね。あなたが他人を思っていれば、悪事に手を出さなければ私とあなたは無関係でした」

「わ、悪かった。もう二度と悪事はしない! お前らにも近づかない! それでいいだろ⁉︎」

「本当、バカですね。それを決めるのは私でもあなたでもなく、あなたがこれまで散々酷い事をしてきたプレイヤーのみなさんでしょう。今、ネットで生配信をしています」

 私はパソコンでネットを開きながらプレイしていた。私の名前で配信したら十五分で千人くらい集まった。

「そこであなたが無罪か、有罪か、アンケートを取ったんですけどね」

 私は読み上げアプリを起動して、パソコンにマイクを近づけて、音声をゲームに出力した。

『許せるわけないよなぁ? うーん、有罪w 有罪 有罪 有罪 決まったな 死刑 有罪 って事だ。やっちまえ!』

 一つ読み上げられる毎に顔色を悪くしていった。最後の一言を聞いた時なんて涙を流していた。

「なんでだよ……たかがゲームでちょっとイキっただけじゃないか」

「たかがゲームのマナーすら守れないからじゃないですか? 私も無断配信なので言えた口ではありませんが」

 pawerは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をした。これまでの行いを悔いでいるんだろうけど、もう遅い。

「それでは、さようなら」

 私はクロスボウを放った。

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