廃人による喧嘩観戦
私達は二人が帰ってくるまで、街を歩き回って時間を潰していた。
すると突然、目の前にももが現れた。もう戻ってきたのかと思ったけど、どうも様子がおかしい。
「大変だよー! RKくんが誘拐されちゃったー!」
「え⁉︎」
「盗賊ギルドに誘拐されちゃったんだよー!」
あの時迷わずについて行けばこうはならなかった。私のせいでRKさんが拐われたんだ。
でも、今は自分を責める時間がない。とにかく助けないと。
「……君は同行していたはずなのに、RKさんを置いて逃げてきたのかい」とhawk bridgeさんは皮肉めいた言い方をした。
「ももー、敵に倒されちゃってリスポーンで戻ってきたのー。別に置いてきたわけじゃないよー」
「てことは何かい、君は二人で戦うなんて大見得はって、実際には負けた上で一人が誘拐されて、一人は簡単に倒されてしまったということかい?」
「ちょっと、hawk bridgeさん! 言い過ぎですよ」
私が二人の間に割って入る。
「そんなことないよー、アンブラァ。全然言い過ぎじゃないよー。実際、油断していたところを無様にやられてしまったからねー。いやー、hawk bridgeくんは的を射ているねー」
「そんな奴に背中を預ける気にはなれないな」
「ならー、試してみるー?」
「勝負かい? いいよ。君が勝ったらギルド解体までの間、君の指示道りにしよう。そのかわり、俺が勝ったら君が俺の指示通り動く。これでどうだい?」
「いいよー。ルールはHPを0にした方が勝ち。これでいいー?」
ももが決闘の申請を送る。
「ああ、いいとも」
hawk bridgeさんは承認のボタンを押した。これで対戦開始。街の人々は喧嘩だと大騒ぎして観戦しにきた。
戦闘が始まると同時に、ももは姿を消した。ハイドのスキルだ。
「アースクエイク」
hawk bridgeさんが地面を思いっきり踏みつけると、地面が揺れ出した。アースクエイクは低確率で相手を混乱させる範囲攻撃スキル。威力は強くないけど、ももには有効だった。
ハイドには解除条件がある。使用から十秒経った時、攻撃した時、ダメージを喰らった時の三つ。
アースクエイクが当たってしまった彼女はhawk bridgeさんのすぐ目の前に現れた。
「喰らえ!」とhawk bridgeさんが剣を振り下ろす。勝負が付いたと思ったその瞬間。
「ざんねーん。空蝉」
彼女の体は木材に変わり、hawk bridgeさんの背後に移動していた。
空蝉は回避スキル。敵の攻撃を一度だけ無効化して、相手の背後に瞬間移動する。
ももはその手にあったナイフを彼の体に突き立てて、すぐ後ろに飛び退いた。
喧嘩を見にきた野次馬には分からないだろうけど、私は既にももの勝利を確信していた。
「ふっ。全然効かないな。そんなちっぽけなナイフで俺の防御力は超えられない」
確かに正面戦闘が得意なhawk bridgeさんは防御力もHPも高い。それを削り切る攻撃力なんて、ももには一つしかない。
「そうねー。確かに攻撃力は低いけどー、あなたの負けよー」
「……なるほど、毒か」
毒は防御力に関係なくHPを減らす。あとは時間さえ稼げばももの勝利になる。
「だが俺には解毒薬がある」
hawk bridgeさんは解毒薬を使って毒を解除した。
それを見てもなお、いや、むしろさっきまでよりも余裕と自信に満ち溢れた表情のもも。
「チェックメイトだよー」
ももはナイフを服の袖にしまうと、スタンガンを取り出した。
そのスタンガンを、おもむろにhawk bridgeさんに投げた。
解毒薬を飲んでいて一瞬反応が遅れたため、それが命中する。
「ま、麻痺、だと」
解毒薬を使っていなければ麻痺を解除するアイテムを使えただろうけど、もう後の祭り。もう一度アイテムが使えるようになるまでの十秒間、完全無防備になる。
「私の勝ちー! アーマードゾーン」
無慈悲に言い放たれたその言葉は、さながら死刑宣告。彼女の体を突き破り、無数の武器が現れた。
それは十秒の内にhawk bridgeさんのHPを0にした。
リスポーンしたhawk bridgeさんに、ももは早速約束通り命令をした。
「あなたみたいな人に背中を預ける気にはなれないのー。だからお留守番しててねー。凶暴な鷹ちゃん」
鷹ちゃん……鷹ちゃん? 誰に話しかけているんだろう?
「た、鷹ちゃん?」
「hawkだから鷹ちゃん。あなたはこれから鷹ちゃんねー。勝者の命令だよー」
ああ、なるほど。にしても見た目に似合わないあだ名だなぁ。がたいのいいこの人が、ちゃん付けなんて。
「う……分かった。好きに呼ぶといい。敗北者は大人しく留守番でもしてるさ」
「聞き分けのいい子ねー。頭撫でてあげよっかー?」と背伸びして頭を撫でようとするが、全く身長が足りていない。
「……早く助けに行ったらどうかな」
ちょっとイライラしている鷹ちゃん……hawk bridgeさんを見て、私はももの手を引いて足早に街を出た。