廃人による殺戮
……あの決意から何時間経ったんだろう。あれから手分けして片っ端からプレイヤーを襲った。もう半数は倒しただろうか。
RKは姿を現さなくなったし、指揮官を失った敵は明らかに弱くなった。
それでも圧倒的な数はやはり脅威で、集中を切らさずに戦い続けるのは限界がある。
今は砂漠の真ん中で戦っているのだけど、囲っているのは全員で1000人程度。ほとんど遠距離武器を持っているし、近接で戦おうと言う人は全員アイテムをいっぱいに持っているんだろうか。
少しずつ攻略法を理解されつつある。いったいいつまでこんな戦法ができるだろう。
「行け!」
一斉に襲ってくる攻撃を受け流しつつ、持っている武器を叩き落とす。これでアイテム欄に一つ空きができた。そうして近接は消滅した。
近接が全滅したと見るや、遠距離からの狙撃を諦め、撤退の準備をしだした。
ここで逃げられては手の内が明かされてしまう。そうならないように全滅させる必要がある。
遠距離には刀のスキルの縮地を使い全滅に追い込む。
何度やったか分からないほど繰り返したこの行為は、もはや流れ作業のように容易くできる。
終わるとため息を吐き、次の人が来るまで軽い休憩を挟む。
こんな事を後何回繰り返せばいいのだろう。先の見えない戦いに嫌気が差していた。
『緊急警告。緊急警告。死亡していないプレイヤーが残り一万人になりました』
もうそんなに減ったのか。良かった。これなら二人がどうにかしてくれそうだ。
一つ深呼吸をしてから私はHPを見た。
112。
少しずつ摩耗していったHPはもう余裕がなくなっていた。回復もできずにどうしたものか悩んでいた矢先の吉報。
喜びと安堵から、今までの疲れが体に回り始めた。指が震え、キーボードを押し込もうにも力が入らない。
あと少し……あと少しなのに腕がいう事を聞かない。
いや、もういい。どうせももと高橋さんがどうにかしてくれる。
もう周囲に人が集まっている。あと1分と経たない内に攻撃が始まるだろう。
そう思った瞬間、不思議な事が起こった。集まった敵がバタバタと倒れた。
「悪いな。遅れちまったよ」
そこにいたのは醸し人九平次さんだった。
「な……何をしているのか分かっているんですか⁉︎ このゲームをするという事は、RKの気分次第で殺されるかも知れないって事ですよ!」
「ああ。よーく分かってるぜ。そんなヤバいゲームにももを放り込んじまったってのも分かってる。それで何もしないってのはあまりにムシが良すぎるってもんだろ」
「あの時はそんな危険なゲームなんて知らなかったじゃないですか!」
「知ってる知らないは関係ない。それで許すかどうか、決めるのは俺やアンタじゃなくてももだろ? じゃあそれを聞けるまでは俺は許されないって事だ。許されないなら償うしかないだろ」
「そんなめちゃくちゃな……ももなら後で説得しますから、とりあえずログアウトしてください」
するといつものヘラヘラしている顔をやめ、急に鋭い目つきになった。
「ああ分かったよ。りんを殺されて黙ってられないだけだよ。なんか文句あるか?」
それを言われてしまったら何も言い返せなくなった。彼女の死は私にとっても辛い出来事だった。あまり関わりのない私でそうなのだから、親友の彼が抱えた悲しみは計り知れない。
「分かりました。ですが一つ約束してください」
「ん? なんだよ」
「プレイヤーが全滅したらあなたも大人しくログアウトしてください」
「当たり前だろ。それで全部終わるんだからな」
「いや、そうならいいんですか……何か引っかかるんですよね」
RKは私に勝つと言っておきながら、自分では手を出していない。それがあまりに不自然に思えていた。この戦いの後にも何かあるのではないか。それが私の予想だ。
あくまでも予想の域を出ないけど、彼のあの見た目も合わせて、なんとなくだけど彼のやりたい事が分かった気がする。
「よく分からないが、RKの野郎がなんか悪巧みしているならお前は休んだ方がいいだろ」
悔しいけど彼の言う通りだ。既に限界に達している私ではRKの暴走は止められそうにない。
「分かりました。ちょっと休みますのでその間お願いできますか」
「おう! 任せとけ!」
彼の顔から影が消え去り、いつもの明るく優しい彼が戻ってきた。何かする事で怒りを無理矢理忘れているのだろうか。その様はどこか脆く、痛々しいものに思えた。




