ももによる暗殺計画
ここは始まりの街の地下水路。真っ暗だし、迷路のように入り組んでいるし、足元はグチャグチャでなるべくなら居たくない。
でも、私の耐久力だと不意打ちが一番怖い。だからここを通るのが一番安全だろう。
とりあえずいい策が浮かぶまでは身を隠すに限る。下手に動いて死んでしまっては、他の仲間に迷惑をかける事になる。
とはいえ、追ってきた人を倒すくらいの活躍はする。
「はーい。ストップして」
一人の男が姿を表すと同時に、十数人が私を囲むように現れた。
だけど私は言葉を無視して、一直線に歩みを続けた。
「止めたいならさー、止めてみなよー」
声をかけてきた男の横を過ぎ去ろうとした時「待てよ」と言われて肩を掴まれた。
その腕を起点にして、私は背負い投げを繰り出した。
地面に寝転がり、何が起きたか理解できていない男の首筋にナイフを突き刺し、首を跳ね飛ばしてやった。
「今気分が悪いんだよねー。邪魔するとさー、殺すよ」
みんな固まって動かなくなった。度胸なしだなぁ。私なら仲間がやられたら復讐に燃え上がるけどなぁ。
彼らにはもうすっかり興味をなくしてしまった。どうせアンブラァが倒してくれるだろうし、私は放置でいいかな。
そう考えて、地下水路を再び歩き始めた。
「待て」
「まだ何か……あれー?」
目を離した一瞬の内に、何故か敵が全滅していた。
いや、正確には一人だけ残っているが、こいつは敵なのか?
その風貌は、ryuutaのアバターそのままだった。
ただのファンって事はないと思う。こんなに強いのはryuuta以外ありえない。でも、ryuutaが存在するなんてありえない。だって森川はアンブラァでログインしているはずだから。
だから、可能性があるとすれば、敵の見せている幻覚か、RKがこのデータで接触を図ってきたか。そのどちらかしかない。
つまりは敵だ。
「アーマードゾーン」
最初から本気だ。RKなら本気じゃなきゃ勝てない。
懐に入って拳を繰り出す。だけどryuutaは杖で上手く防がれてしまい、本体まで届かない。
「君は誰かなー?」
「……敵じゃない。だから拳を下ろしてくれ」
「敵じゃない証拠はー?」
「……ない」
話にならない。これ以上話を聞く価値はない。
私は死角に回り込んで攻撃した。それには対応しきれなかったらしく、直撃した。
やっぱり偽物だ。ryuutaなら簡単に躱せたはずだし、さっきから防御だけで手一杯で、攻撃に転じられずにいる。
「待て! お前には殺して欲しい奴がいるんだ!」
「へー。どうせ全員殺すからー、安心して逝ってねー」
「ああ……えっと……後は何を言えば……」
悩んでいるからか、目が泳いでいて戦闘どころではなさそうだ。
「俺は……このデータの持ち主に頼まれて来たんだ!」
私は攻撃の手を止めた。
「本当ー? じゃあさー、本人に確認していいかなー?」
「……構わないが、お前達はフレンドでもないのにどうやって確認するんだ?」
……なるほど。確かに、アンブラァの誤作動で今はフレンドではない。それを知っているって事は、普通の敵とは違うのかな? RKの可能性はまだあるけど、本当にアンブラァが向かわせてくれたならむげにもできない。
「……分かったよー。信用してあげるねー。でも、変な動きしたらすぐに切り刻むからねー」
「それは信用してるのか? まあいいけど」
「で、君の名前はー? なんて呼べばいいのかなー?」
「……言えない。何も言えない」
「……へー。じゃあryuutaって呼ぶねー。で、なんで人を殺したいのかなー?」
「……それも言えない」
言えない事ばかりか。こんな人を信用しないといけないの? アンブラァも無茶な頼みをするなぁ。
「なら誰を殺したいのー? 言っておくけどー、これも言えなかったら何もできないよー」
「大丈夫だ。それは言える。ターゲットはYOSHIDと言う男だ。他はhawk bridgeに任せてある。それと、殺して欲しいと言うのは言葉の綾で、本当の事を言うと、アンブラァの所に連れて行ってもらえればそれでいい」
「それはなんでー?」
「……言えない」
また言えないか。連れて行くだけでいい? 私では倒しきれないほど強いって事かな?
「じゃあそこまで連れて行ってもらえるかなー」
「ああ、了解だ。俺に続け」