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廃人による作戦会議

「……ごめんなさいー!」

 急に謝ったかと思うと、凄い速さで地面に頭を擦り付けた。その勢いでフードが捲れて顔が見えた。

「あー! ももじゃないですか! 何しているんですか?」

 驚く事に、彼女は私のフレンドのももだった。

「いやー。ちょっと驚かそうとしたんだけどねー、なんだかお友達の殺意が高かったからさー」

 彼女はかなり弱い。RKさんが一太刀入れていれば、糸が切れた人形の様に倒れただろう。

 それは、単純にレベルが低いのも関係するが、そもそも彼女は正面戦闘に向かないプレイスタイルなのが一番の原因だ。

 所謂PVP向けの暗殺職。暗器使いだ。それもレベル70程度なのに、大会で優勝経験もある程の実力者。

 私が記憶を辿っていると、

「君って初心者だよね? フレンド多いんだね」とhawk bridgeさんが疑問を投げかけてきた。

 あ、すっかり忘れてた。まだちょっとした疑念で済んでいるけど、これを続けていけば決定的な確信に変わるかもしれない。

 ちょっと対策が必要かな?

『もも。ちょっと正体隠したいから、私に話合わせくれない? あと、予備の曖昧模糊エンチャント装備とかないかな?』

『んー。話を合わせるのはいいんだけどー、装備もある事にはあるけどー、ちょっとだけ手伝って欲しい事があるんだよねー』

『うん、いいよ』

『ありがとー! じゃあねー、この街来るたびに盗賊ギルドが鬱陶しいからー、壊滅させてきてー』

 ギルド壊滅とは高くつくなぁ。全員倒せばいいだけのダンジョン攻略とは違って、ギルドは倒してもみんなリスポーンする。だから、私でもそれなりに大変な仕事の部類に入る。

 でもまあ、やってできない事はない。

『分かったよ。ちょっと時間は掛かるけど、今週中にどうにかするよ』

『んー? 今からやろうよー。ほらー、こんなにいっぱい人がいるんだから、一緒に倒そー?』

 今からは無理だ。そんなに簡単な事でもないし、hawk bridgeさんが見てる。私が釈明しようとした時、それよりも先にももが口を開いた。

「お二人ともー、今から盗賊を倒しに行きませんかー?」

「僕は構わない。PVPの経験を増やしたいと思っていたからな」

「俺もいいよ。困っている人がいるなら、断る理由はないさ」

『ほらー、みんなこう言ってるよー。行きましょー?』

 断るに断れない雰囲気になってしまった。私は渋々、首を縦に振った。

「はあ、じゃあみんなで行きますか」

「いやいや、アンブラァさんは休むべきでないかな」

「何を言ってるのー? 一番の戦りょ……ムグ!」

 言葉を紡ぐ前の刹那に、口に手を押し当てて塞いだ。

『話、合わせてね。私は初心者で弱い設定なの』

 恐怖で震えながらうなずくももを見て、手を離して開放した。後ろでRKさんが鼻で笑う音がした。

 私はhawk bridgeさんの方に向き直った。

「私だってサポートはできますし、いつまでも初心者ではいられません。一緒に行きます」

「そこまで言うなら……分かった。君の思うようにすればいいさ」

「はーい、じゃあパーティ組むねー。話の続きはそこの酒場でしよー」

 リーダーをももにして4人でパーティを組み、近くの酒場に入った。

 酒場は木製の床に白いレンガの壁。木製の家具が配置されていて、色々なプレイヤーが集まっている。

 とりあえず四人用の席に座り、飲み物を注文すると、即座にそれが持ち物に追加された。それを飲みながら、ギルド壊滅の作戦会議を始めた。

「そもそも、ギルド壊滅なんてできるのかい?」

 尤も至極な疑問だ。ギルドはギルドマスターが解散を選択する以外に、基本的に解散方法がない。

 基本的に、と付けたのは、私の発見したバグでギルドマスター権限を奪う事が可能で、それさえ使えば簡単に消せるからだ。

 でも、そんな事をすればhawk bridgeさんに正体を勘付かれる可能性があるし、運営に目を付けられてしまう。

 そうなると、やっぱりギルドマスターに解散を強制する必要がある。やり方として、一番手っ取り早いのは、

「ギルドマスターの心が折れるまで痛め付けてやれば可能だ」

 RKさんは私の言いたい事を代弁してくれた。ただ、荒々しい言葉と、不穏な単語にhawk bridgeさんは眉をひそめた。

「必要なのは段取りと根気だよー。ギルドマスターを叩く前にー、メンバーを半分くらい追い出せれば、ギルドマスターは意外と簡単に折れてくれるよー」

 発言から読み取れる通り、彼女はこの手の迷惑ギルド解体はかなり手慣れている。それを生業としているのだから当然だ。それだけにその殺伐としたゲーム観が常識となって、平然と恐ろしい事を口にする。

 hawk bridgeさんはさらに暗い表情で、大きなため息を吐いてから、ゆっくり口を開いた。

「そんなの、俺達まで悪人になるだけじゃないのかい? 俺が悪に染まるのは百歩譲って許せるとしてもね、この場にはアンブラァさんもいるんだよ。そんな事は容認できない。なんとか話し合いで解決できないのかい?」

「んー。きみー、小学生ー? 愛と勇気だけがお友達の子かなー?」

「俺は会社員さ。現実の辛さは知ってるよ。だからゲームでくらいはいい世界で暮らしたいと思う。当然じゃないかい?」

 ハッとした。なんで私がゲームをしているのか。それは現実から逃げたかったからだ。そのはずが、何故ゲーム内ですら現実を再現しようとしているんだろう。

 私はhawk bridgeさんに賛同しようとした。でも、そこに一石を投じる人がいた。

「くだらない。だったらほのぼのしたシュミレーションゲームでもやればいい。このゲームはもっと殺伐としたゲームだ。だから全マップでPVPができるんだ。だから悪人プレイがアカウント停止対象にならないんだ」

「私も同意見だなー、治安の悪さはこのゲームの魅力の一つだと思うよー」

 確かにそれも一理ある。運営がそれを容認している以上は、それはゲームを構成する要素の一つだし、それが嫌なら他のゲームでもなんでもすればいい。

 対極にある二つの意見の、両方に納得した私は、まさに板挟みの状態になってしまった。

「駄目だ。段々苛ついてきた。ここでおっ始める前に、僕らだけで潰しに行くぞ」

「そうだねー。アンブラァはどうするのー?」

 私が無言だったのを心配してか、ももは自分が依頼したはずなのに、行くか行かないかを選ばせてくれるらしい。

 それが逆に私を苦しめる。いっその事、依頼だから、と割り切れたら悩まずにもも達に着いて行っただろう。

「私は……どうしたらいいんでしょう……」

「君は君の好きにすればいいさ。でも、俺としては……行って欲しくはない、かな」

 私は黙って下を向く。それは行動しない意志の現れとして認識された。

「……そうか、分かった。お前らは二人でデートでもしてればいい。僕とコイツはデッドと洒落込むからな」

 そう言い残して二人は酒場を後にした。残された私とhawk bridgeさんの間には、気まずい沈黙が流れていた。

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