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廃人によるラスボス

 決戦の地は始まりの街。だが、普段とは一味も二味も違う。一歩動けば何をされるか分からない緊張感。物陰から常に放たれる殺気。街並みは変わらないのに、まるで別物だ。

 私が一歩歩いた瞬間、物陰の殺気襲いかかってきた。咄嗟に防御姿勢を取ったが、必要はなかった。一撃で1ダメージしか効いていない。だが、この数でずっと食らっていたら死ぬかもしれない。

「やめてください! 私達を殺したらあなた達がこのゲームに囚われるんです」

 そう言っても攻撃は止まなかった。

「へッ! イベントキャラの言う事なんか聞くかよ」

 なるほど。イベントの演出の一つだと思われたのか。

 彼らにとって、私達は最後の敵になるかも知れない。なら最大限楽しんでもらおう。それと、無理矢理にでも退去させよう。このゲームにいては危険だから。

「わかりました……ならば、最後の敵(ラスボス)として忠告しますが、今すぐ逃げるべきですよ」

 私はアイテム欄を開き、ちょっとバグを使用した。

 そしてすぐにアイテム欄を一杯にして新しいアイテムが入らなくした。

「あと3秒だけ待ちます。その間に逃げなければ、本気を出します」

「へっ! 何言ってるんだ! ここまで手も足も出なくてよお。耐久だけで攻撃は弱いんだろ」

「……3秒。経ちました」

 瞬間、私の周囲のプレイヤーの目の前にはエラー警告が発生し、それと共に全てが静止した。

 あまりの光景に遠巻きに見ていたプレイヤーも絶句し、動けないでいる。

 そして少し待つと、エラー警告が出ていたプレイヤーが消滅した。

 説明すると、彼らは"アカバン"された。アカウント管理のAIが誤作動を引き起こし、私がバグで作ったあのアイテムを入手したプレイヤーは、強制的にゲームを追放される。そして戻って来ることも叶わない。当然だ。アカウントが消えているのだから。

 それが私のやった事だ。私の周囲に入れば誰であっても、もし私以上の力を持っているキャラでも、自動削除される。

「さあ、どうしましたか? 敵はここですよ」

 そう言って不適に笑うと、プレイヤーの表情から血の気が引いた。

「に、逃げろ! 一時撤退だ!」

 私は武器を刀に変え、縮地を使った。今命令していた司令塔の様な男の目の前に移動すると同時に、もう一度バグアイテムを生成した。

 あとはさっきと全く一緒の展開だ。エラーが発生して、消える。

「敵はこっちと言っているのに、逆に向かって走るなんて。まあ、私は優しいので、方向を間違えた人へはこちらから向かいますよ。一人だって逃しませんから」

 とは言え、もうほとんどの人が隠れてしまったようだ。ほとんど、と言ったのは、一人転んで逃げ遅れたメイドさんがいるからだ。装備制作を依頼していたメイドさんだ。

 ゆっくり近づくと、涙目になって神に祈りを捧げ始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。私は討伐に来たわけではありません。完成した装備を届けようと……だから殺さないでください!」

 この緊張感の中、見た目と声のギャップのシュールさに耐えられなくなって、思わず笑ってしまった。メイドさんはキョトンとしている。

「ハハ。そうでしたか。なら防具を渡してください」

「はい。こちらになります……」

 そう言って渡した装備には、マイナスエンチャントがこれでもかと詰められていた。そうだった。私弱くなりたいと依頼していたんだっけ? もう関係ないが。

「あの……お代は結構ですので、どうか助けてもらえませんか……?」

 縮こまりきって恐怖している。ここまで怯えているのなら、この人は私に倒されるとどうなるのか、大体察しがついているのだろう。

 私はこんな事をさせたくてラスボスを演じているのではない。この人には色々お世話になったし、安心してほしいなぁ。

「ええ、ええ。いいですよ。お代はしっかり払いますし、助けてあげますよ」

「本当ですか! ありがとうございます……」

 私は金を渡した。

 その金にバグアイテムを入れて。

「ああ……何故‼︎ 何故です……」

 この世の全てを呪わんばかりの形相をして、彼は停止した。

「この世界から助けてあげますね」

 私はただ襲っているわけではない。みんなを助けるために襲っている。

「さあ皆さん。助けてあげますよ! この世界から!」

 ……なんの反応もない。転移アイテムで逃げたのか。

 仕方ない。地の果てまで追ってでも全員助けるとしよう。

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