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廃人による自分語り

「罰ゲーム、私だけやってませんよね。今から話します」

 全員の視線が集まり、極度の緊張感に見舞われる。吐きそうなほど目が回り、多分見た目からもう危ない雰囲気が出ている。

 そんなだから、視線はより強いものに変わっていく。これ以上は耐えられそうにない。私の心の弱い部分が出る前に、早く話してしまおう。

「私は……アンブラァである私は両親が刑務所に入っているんです」

 両親は天才的なサイバーセキュリティを作るプログラマーとして名のある人だった。その間に生まれた私は、プログラマーになる為に生まれたような能力を持って生まれた。

 でも両親は変な目で見る事もなく、普通の子供を育てるように育ててくれた。少し変わった事と言えば、保育所に預けられる前からパソコンを与えられていた事くらい。

『あなたの才能を伸ばすためよ』と母は言っていた。

 小学生の頃は大ヒットゲームを何本も作っていた。それでクラスで変わり者として見られるのを懸念して、ゲームは両親が作った事にしてくれた。私が引きこもってゲームをしてもお金が尽きない理由がそれだ。

 そして、私が中学生になった時、父親が深刻な表情をして言ってきた。

「なあ、お前ならクラッキングもできるだろ? やってくれないか」

 クラッキングとは、いわゆるハックの事だ。

 両親はセキュリティを何度改善しても、すぐにその対策をされてしまう現状に嫌気が差していたらしい。

 だから、その犯罪者たちに攻撃をして、元を絶ってしまおうと考えたらしい。

 今考えると馬鹿馬鹿しいし、その犯罪者たちと同じ事をしているだけなのだけど、中学生の狭い世界に生きる私にとっては、両親の言葉は信託のように、絶対の信頼を置けるものだった。

 私は、ボタン一つでどんなシステムにも干渉できる、最強のコンピュータウイルスを作ってしまった。

 それから両親は一度も悩みを抱える事なく、しばらく幸せな日々を過ごしていた。仕事が激減したらしく、家にいる事が増えた二人は、私と良く遊んでくれた。

 そして私が中学3年生になった時、警察が家に来た。両親を逮捕して、私も保護された。

 私は両親の減刑を求め、保護してくれた警官に、二人の正当性を説いた。悪人を懲らしめているだけだ。悪いのは相手で、両親は正義なのだと。

 それを言っても分かってもらえないから、暴言も言ってしまったけど、警官は可哀想な者を見る目で、優しく危険性を示してくれた。

 このウイルスは、感染した機械に致命的なエラーを発生させたり、データを改竄したりできる。もし病院などに侵入すれば、医者のカルテをめちゃくちゃにしたり、処方される薬を変えたり、生命維持装置を破壊する事なども簡単だ。

 各国の重大な秘密を奪う事もできるし、衛星を地球に落とす事だってそう難しくない。核爆弾を発射することすら可能である。

 私は、そこまで考えていなかった自分の愚かさを呪った。そして自分の強大すぎる力が怖くなった。

 その気になれば世界を滅茶苦茶にできるような才能を持ちながら、簡単に人に騙される自分が、次はどんな事をしでかしてしまうのか分かったものではなかった。気が気ではなかった。

 その後、叔母の家に行く事になった。でも彼女は私の能力を恐れて、腫れ物を扱うよう接した。そんな日々が嫌になって、家を出た。そして、あの家を買って、誰にも会わなくて済むように引きこもった。兄弟もいない私は、家にいれば誰にも迷惑をかけずに済む。

 そして、家にいる内にいつの間にかゲームにハマっていた。

「……それが私の過去です」

 話し終えた頃には。震えや緊張はもうなくなっていた。胸に支えていた物が取れたようだった。

 ああでも、みんなは幻滅したかな? 侮蔑するかな? 嫌悪しているかもなぁ。それは、ちょっとだけ嫌だな。

「……話してくれてありがとう。それは辛かっただろうね」

「え?」

 高橋さんの反応は、想像していた物と違った。兵器のような私に優しい言葉を投げかけてくれた。

「そんな事があったんだねー。なんて言っていいか分からないけどー、頑張ったんだねー」

「話聞いてましたか⁉︎ 私は核兵器だって使える化け物なんですよ!」

「ハハ。化け物? 君は自己評価が高すぎるのではないかな。君は人だよ」

「違います! 私は人を傷つけるばかりの化け物なんです!」

「いいや。ここにいる俺たちと大した差はない、普通の人だ。ちょっとプログラムが得意なだけだろう? そんな物、社会に出ればただの個性で話がつく。大体、本当にそのプログラムで人を傷つけた事があるかい?」

 私がこれまで出会ってきた人物は、私を下に見て哀れんだり、強大な力に恐怖したり、その力で狂ったりしていた。

 でもこの二人はあくまで対等で、優しい言葉を投げかけてくれる。

 ずっと周りとは違い、ある種の孤独だった私には、その対等な関係と言う物をこの一生で感じた事がなかった。

 誰かと一緒とは、これほどまでに安心感を与えてくれたのか。

「なら私は……普通の人と変わらず、社会に出てもいいんですか?」

「ああ。当たり前だ」

「当たり前だよー」

 私は泣いて喜んだ。今まで社会全てに害をもたらすと思っていたから引きこもっていた。辛かった。死んでしまいたかった。でもその呪縛も、ただ自分で勘違いしていただけらしい。

 最初からそんな事、私の妄想に過ぎなかった。

「ふふ……フハハハハ! ついに見つけたぞ! 森川陽子!」といつの間にか井上さんが開いていたノートパソコンから音声が鳴った。

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