廃人による黒龍戦
黒龍は透明状態でRKさんに突進した。攻撃モーションに入っても透明な様を見ると、どうやらプレイヤーの使う技より強化されているらしい。
RKさんは防ぐ事も避ける事もできずに、突進をまともに喰らってしまった。
その勢いのまま方向を変え、黒龍は次に私目掛けて突進してきた。
遠距離攻撃は黒龍には効かない。なら、
「ウェポンチェンジ『剣』」
弓は剣に形を変えた。
私は黒龍の突進を避け、カウンターとして斬りつけた。
ただ、補助魔法を使っていないのでダメージはほとんどない。今から補助魔法を使うにも、かなりMPを使ってしまっている。
私では倒しきれない……となると、どうにかRKさんに戦ってもらうしか無い。
敵の動きを私が伝えるか? いやダメだ。敵の動きが早いせいで伝えている間に次の行動をされてしまう。ももなら次の動作を予測する事もできただろうけど、私には無理だ。
敵の攻撃を防いでRKさんに攻撃してもらうのも無理だ。私のHPは残り少ないし、ヘイトを貯めるスキルもない。これがhawk bridgeさんならそれもできただろうけど、私は私でしか無い。
どうするか考えている間も黒龍の猛攻は続く。私は回避できるが、RKさんは淡々と攻撃され続けた。
「なんだこれ! クソッ……調整ミスだろ!」
RKさんは怒りながら叫んだ。今更ながら、このダンジョンの難易度は狂気じみている。アンブラァのデータですら多少の苦戦は免れないだろう。
どうすればいいんだ……
「そうだいい作戦が……」
RKさんは途中で口を止めた。
「なんだ? 言ってみろ」
「いや勘違いだった」
そんなわけない。何か隠しているのは明らかだ。
何を隠しているんだろう? 隠す意味がある作戦ってなんだろう?
……あ。分かった。
「ウェポンチェンジ『暗器』」
「……! おいやめろ!」
私は彼の静止に耳を傾けずに、黒龍の攻撃に合わせて技を使った。
「空蝉」
私は攻撃を避けながら黒龍の背後に回り込み、その背にしがみ付いた。
これなら、私を目印に切り裂けば攻撃が当たる。
それと、その攻撃で削り切れる様に黒龍のHPを減らしておかなければならない。
「アーマードゾーン」
ももと違ってそんなにダメージは出ないけど、それでも結構強い。
「早くしろ! 一撃でも反撃されたらゲームオーバーになってしまう!」
私は攻撃しないRKさんに催促した。
「チクショウ! やればいいんだろ!」
黒龍は暴れ回り、RKさんに突進した。
RKさんはそれに合わせて、
「一刀両断!」と叫んだ。
私は最初の街でリスポーンしていた。
始めてのギルドイベントは失敗かな。二人も脱落者を出してしまった。
でもダンジョン攻略は概ね成功かな? さっきの黒龍が、村人の言っていた邪竜で間違い無いだろうから。
あとは村人に報告するだけだし、RKさんとhawk bridgeさんなら上手くやってくれるはず。
あーあ。二人が帰ってくるまでどうしようかな。
「あー、ryuutaだー。もうギルドイベント終わったのー?」
「ももか。いや、俺もゲームオーバーになった」
「へー。ryuutaくんがゲームオーバーなんて珍しいねー。ryuutaくんはー、なんだか現実とリアルの区別がついていないって言うかー、ゲームオーバーを極端に嫌ってたよねー」
認めたくないけど、確かにそうだ。たまにゲームの出来事と現実の出来事がごちゃごちゃになる時がある。でも、夢があまりにも現実的だと、現実と混合してしまう事なんて誰にでもあると思う。
その感覚の延長で、たまにゲームでの死が、現実での死を表す気がしてしまう。
だから私は、基本的に献身をしない。
でも今回は何故か、作戦を頭で理解した瞬間に体が動いていた。
なんでだろう。悩んでも理解できない。
でもすぐにどうでも良くなった。
『おいアンブラァ。どうにか入口を見つけてくれ。邪龍はあいつじゃなかった!』
RKさんから届いたメッセージを見て、私は目を疑った。
『何⁉︎ ならあの龍はなんだったんだ!』
『あいつは黒龍。邪龍は最上階……つまり一階のハズレルートの最奥にいた!」
あの村人のセリフは誤字でもなんでもなかったのか。
この内容をももに説明して、虚言の洞窟の入口を探し始めた。
二人が邪龍にやられてしまうより先に見つけなければ。