廃人による新たな仲間
諦め切っていたパーティは、今になって現実を理解してざわめき出した。
その中でhawk bridgeさんだけは私に近づいて来て、感謝の言葉でもくれるのかと思えば、
「……かっこいい」とだけ一言呟いた。
私のゲーム内の見た目は、一言で言えばミイラ男。全身を包帯でグルグル巻きにしている。正直、あんまりかっこいいとは思っていない。
ただまあ、戦い方がかっこいい自覚はある。複数の武器を代わる代わる使いこなして、必殺技を回して使う。ロマンがある戦い方だと思う。それに、みんなのピンチに颯爽と現れたのもなかなか良かったと思う。
でもかっこよさなら、自分を二の次にして仲間を守った彼が一番だ。私にはできない。
それを伝えようとも思ったけど、このキャラは無口で冷静なイメージで作っている。だから、打ち込んだチャットはこんな言葉になった。
「どうでもいい。それより、レベルが適正じゃない。出直せ」
私はすぐにログアウトして、アンブラァでログインした。
間もなくしてメールが送られた。
『こっちは終わったけど、今どこにいるのかな?』
『お疲れ様です。まだ移動していません』
『ならそっちに向かうから待っててくれるかな?』
『はい』
数分と経たない内に到着したhawk bridgeさんは、一人仲間を連れて来ていた。
さっきの戦闘にいた人かな? 結構ゴタゴタしていたから分からない。
「君の名前を聞いて会いたいと言い始めてね。知り合いかな?」
「僕はRK。レベルは120。武器はまあ、見ればわかるだろうが刀。よろしく」
知らない人だけど、同じような状況には何度も出会していた。私の名前を聞いて、会いたいと言う人は少なくない。
私が返事を入力していると、メールを受信した音が鳴った。
開いてみると、かなり短い文章が書かれていた。
『本当にアンブラァだ。よし。ああ、悪い。RKだ』
チャットではなく、メールで話しかけて来たと言うことは、私が正体を隠している事を、なんとなく勘付いているようだ。メールなら他の人に見られる心配がない。
私もそれに合わせてメールを送った。
『初めまして。何かご用でしょうか?』
『いや、ご用って程もないが。面白そうだったんでな。そんな事より、ヒソヒソ話ばっかりしてると怪しまれるぞ』
そうだった。私は急いでチャットの返事を入力した。
「アンブラァです。武器はクロスボウです。よろしくお願いします」
「よし、そろそろ出発しようか」
街までの帰路は長い。ラストダンジョンから始まりの街までが近ければ、万が一にも初心者が迷い込んでしまうかもしれない。だから、徒歩で大体一時間ほど掛かるところにある。
そのため、ひたすら長い道を歩いている。話し相手がいるので退屈は感じないとは言え、かなり暇だ。
片手間に現実で部屋でも掃除しようかと周囲を見回した。
もう何年掃除してないんだろう。ゴミが散乱して、その上に埃が溜まり、そこに生ゴミから出た汁がかかり、その上にまたゴミが散乱している。
でも臭いは感じない。多分私の体の方が臭いからだろう。風呂に何ヶ月入ってないかも分からない。
髪の毛も伸びっぱなしで、まるで呪いの日本人形だ。
私は廃人だ。現実で死んで、ゲームの中だけ生きる存在。
現実を見ると、情けなくて、嫌になって、ゲームに逃げた。
ゲーム内では、途中にある砂漠の街に着いていた。街の名前は【トリゴーニア】。
「疲れてないか? ちょうど半分まで来たことだ、休憩するか?」
もう半分まで来たのか。フルダイブじゃないからあまり疲れはないけど、RKさんの疲れが酷い。慣れてないと、VRは酔う。そんな感じの疲れ方だ。
「そうですね……確かに疲れました。連れて来てもらって申し訳ないのですが、休憩させて貰えますか?」
「ん? あぁ。そうだね。休憩しようか」
hawk bridgeさんは全然疲れてないみたいだ。動きを考えるに、この人は確実にフルダイブのはずなのに、凄いなぁ。
「そうだ。この街でワープアイテム買ったらどうだ」とRKさんが提案した。
正直、ちょっとしたイタズラで後三十分も無駄にするのは面倒だ。RKさんも疲れている様だし、この意見に乗ろう。
「はーい、ちょっと待ってー。この村で買い物したいなら税金が必要なのー。それに入場料も出してもらおうかしらー」
小柄な少女が話しかけてきた。見た目は、頭から足先までローブに包まれているせいで武器や顔が分からない。名前も、装備のエンチャントで見えなくなっている。
そう言えば、この村は悪党ギルドの縄張りだった。このギルドはゲームの中だからと悪党になる輩の集まりだ。いつもなら興味もない有象無象でも、力が出せない今は面倒な事この上ない。
「そうだったのか。いくらだい?」
hawk bridgeさんはそのまま金を払おうとしている。きっと私の事を考えて、穏便に済ませようとしてくれたんだ。
それを、RKさんは静止した。
「やめとけ馬鹿。一度味をしめれば二度と戻れなくなる。こういう奴は一度、痛い目に合わせるに限る」
腰に掛けられた刀に手を伸ばし、腰を据えて構える。
「やる気なのー?」
ピリピリとした空気が流れる。一触即発って感じだ。