廃人による迷宮探索
私は偶然遭遇したゴブリンと戦っていた。ゴブリンと言っても、レベル400もあるので、普通のボス敵よりは強い。
「ゲニウス! アルケイデース! ウェポンチェンジ『刀』!」
ゴブリンの短剣を捌きながら斬りつけると、断末魔を残して消滅した。
その様子を見て武器をしまった時、RKさんからメッセージが入った。
『階段が見つかった。場所を送る』
その場所まで行くと、RKさんが階段の横に座っていた。まだhawk bridgeさんは来てないようだ。
こちらに気付いたRKさんはサッと立ち上がって話始めた。
「早かったな。じゃあ降りるぞ」
何かいつもと雰囲気が違う。なんだか、いつもより明るいと言うか、いつもより言葉が軽い。
「hawk bridgeはどうする?」
「ゆっくり歩いてりゃそのうち来るだろ。さっさと行くぞ」
そう言うと彼はすぐに階段を降り始めた。
なんとなく信用しきれない彼だけど、訝しげに見ながら後ろについて行った。
三層目はなんだか怪しい地下洞窟のような部屋に出た。
暗い洞窟を歩みながら、RKさんが口を開いた。
「なあ、もう腹を割るが、お前はアンブラァだろ?」
「……ああ、そうだ。腹を割るならお前も正体を明かせ」
どこまで話をするかで彼の立場を判断できるだろう。
「河口亮太。45歳独身。住所も言った方が良いか?」
「馬鹿か⁉︎ 知らない奴に個人情報をそう簡単に明かすな!」
「正体を明かせと言ったり、明かすなと言ったり、自分勝手な奴だな」
この人と話していると調子狂う……大体、正体を明かせってそう言う意味じゃない。
「それにお前の正体なら見当がついている。知らない奴ってわけでもない」
「正体ってなんだ……」
「言っても良いんだがな……まだこっちも確証を掴めてないんだ。そこでだが、この次のイベントはオフ会にしないか?」
「お前みたいな得体の知れない奴とリアルで会える程の度胸はない」
「得体の知れない奴? 住所は東京都。最終学歴は専門学校……」
「ああ、黙れ黙れ! そう言う事じゃない。考えの読めない奴って事だ」
するとRKさんは大袈裟に笑い出した。
「ハハハハ! 考えの読めない奴? 仲間を騙しているお前が、考えが読めないから信用できない? よくもまあ言えたもんだ」
そうだ。私はhawk bridgeさんを騙している。そんな私が信用できないなんて言えた立場じゃないのかも知れない。
「なあ、信用できないのは他の奴だって一緒だろ? 一番仲のいいももでさえ、リアルで会った事は当然、顔すら知らないんだろ? それは逆の立場も同じだ。そんな有って無い様な関係だからすぐ揺らぐんだ。一度オフ会を開き、関係を確固たる物にすれば、hawk bridgeもお前を許すんじゃ無いのか?」
そうかも知れない。彼の素性が分からないのと同じ様に、誰も私の素性を知らない。私がパソコンの前に張り付いている廃人だと言う事も知らないし、私がそんな生活を送るための費用の出所だとか、私がこんな人間に至った原因だとか、そんな事を知っている人は誰もいない。
「……分かった。オフ会だな。できる限りはやってみる」
「そうしてくれ……さて」
階段の方から叫んでいる声が聞こえた。
「おーい、RKさん! ryuutaさん! どこだ!」
hawk bridgeさんが大声で私達を探しているようだ、私もそれに返そうとした時、RKさんに止められた。
「待て。ほら見ろ」
壁が人型に切り抜かれ、ゴーレムの様な魔物が現れた。ここまで来た道の方に現れて、hawk bridgeさんと私達の間に入った。
だが、辺りを見回すばかりで攻撃してくる様子はない。
「こいつはまだこっちに気付いてない。すぐにこの場から離れるぞ」
戦っても良いけどかなり疲れているし、ゴブリンとの戦闘からMPが回復しきってない。二人……いや、合流を考えても三人で押し切れる敵か判断しきれない今、ここで戦うべきではないか。
「ゲームキャラなんだから、こいつが声なんて関係ないだろ」
「今までので分かっただろ? ここのNPCは色々特殊だ。声に反応するキャラも否定しきれないだろ?」
そうだった。このダンジョンはかなり特殊。何が起こるかわからない。
彼に言われた通り、黙って他の道に進んだ。
幸いにもこの洞窟は色々な道がある迷路の様になっているので、道さえ覚えれば迂回してhawk bridgeさんと合流できそうだ。
マッピングも兼ねながら、そこら辺を歩き始めた。




