廃人による魔法戦
「分かれ道……左だ。壁に左手を付けて進め」
左手を壁に付けて進めば迷路は迷わないらしい。
「いや待て。分かれ道の前に看板があるんだ」
そう言ってRKさんが指差した看板には、点と棒線だけで何か書かれていた。
「トンとツー。モールス信号か」と私は小さく呟いた。モールス信号は専門外。戦艦ゲームとかやった事ないから分からないけど、間隔的に二文字だと分かる。つまり右かな?
「看板を信用するなら右、全部探索したいのなら左から行く。好きに決めろ」
「私は今日休みだしー、左がいいかなー」
「俺も同じで今日は休みさ。でも、せっかくのギルドイベントがぐだぐだするのはちょっといやかな。どちらかと言えば右に行きたいね」
「看板の示す道以外はトラップかも知れない。一度でもゲームオーバーで二度と挑戦できなくなるダンジョンでそれは一番避けるべき事だ。右に行くぞ」
「分かった。右だな」
私が一番前に出て右の道を進むと、不思議と敵が一切出なかった。
そのまま歩き続けると、すぐに下へと続く階段を見つけた。
「どうやら、謎解きで正解すれば簡単な道に進める、といったダンジョンらしいな」
RKさんがそう言うと、ももが先頭に出て「一番乗りー」と楽しそうに階段を無警戒に降りた。
それに続いて階段を下ると、草原のような景色が広がっていた。地下だと言うのに頭上には青空が広がり、青々とした草木が自由に伸びていて解放的な空間になっている。
そこを風が吹き抜けたりして、その風がダメージを与えてくる。
よく見ればすぐ近くに、風を纏った巨人がいた。半透明なそのモンスターは、身に纏った風を広範囲に飛ばして少しずつダメージを与えてきている。
「あっちゃー。これは一番嫌いだなー」
こういう広範囲持ちのボスは、ももには対処法がない。極限までHPを減らしている彼女は、回避不可な小ダメージが致命傷になる。
多分後一撃でももはゲームオーバー。
「hawk bridgeはももを守れ」
hawk bridgeさんはももと巨人の間に入り、盾を構えた。
「了解。マスター」
「RKは俺の準備が終わるまで耐えろ」
「ああ、わかった」
RKさんは巨人の攻撃を刀で往なしながら接近して、隙を見て攻撃をする。
さて、戦う準備をするにも、さっき戦ったばかりで今はMPが足りない。こんな事になるならもうちょっと休んでからこの階に来ればよかったと後悔した。
それもまあ、些細な問題でしかない。私の装備は全て能力上昇倍率上昇や魔法威力上昇の装備ばかりで、ウェポンチェンジなどを前提とした装備にはなっているが、自作魔法もそこそこな数あるため、魔法使いとして戦う事もできる。
何をするにも、まずはマナポーションを使った。
「ふう。弱点属性がわからないが……とりあえずFアロー1」
私が呪文を唱えると、火の玉が杖から放たれた。
自作魔法はいくつもあるのでナンバリングしている。その内でも1は、様子見で打つのに適している程威力の魔法だ。使用制限などもないためMP効率も悪く、本当に様子見で使うためだけの魔法が1。
属性毎に0〜9までの魔法を用意していて、3以上はきちんと火力が出るようになっている。
火の玉が当たりほんの少しだけ今回敵に入ったダメージをしっかりと記憶して、次は水属性の魔法を詠唱した。
ホースで水を撒ける程度の水が杖から出る。それが当たると火属性と変わらないダメージが入った。これが等倍ダメージなんだろう。
次は地属性。人の頭くらいの岩が杖から飛んで行く。それが当たると、さっきまでの倍のダメージが入った。まあそれでも微々たるものだけど。
私はマナポーションを使ってから魔法を詠唱した。
「よし。Lアロー8」
杖先がキラリと光ったかと思うと、巨人の足元が割れて盛り上がり、潰すように巨人を取り込んだ。RKさんが与えていたダメージと合わせて、だいたい半分までHPを削れた。
ギリギリで避けたRKさんは、何も警告せずに危険な魔法を使った私に一言言いたげにこっちを見たけど、それより先に巨人をどうにかしようと向き直した。
巨人を潰していた小山が崩れ落ち、巨人の攻撃に警戒した瞬間、巨人は姿を消した。半透明だった体は完全に無色透明になり、レベル表示やHPバーが消えていた。
HPの割合で行動パターンが変わる敵だったらしい。
RKさんがキョロキョロと敵を探す中、私はプログラムを見る事で敵の動きを見えた。そして異変に気付いた。
巨人はももの背後に回り込むように走っていた。しかも、その間にいる私達は避けて。
攻撃していないももは狙われにくい恥ずいなのに、そのももに突っ込んでいる。しかも、私達を避けて動くなんて普通のAIではありえない行動パターンだ。
私は咄嗟に魔法を使おうとして、やめた。巨人とももはほとんど接触している。あの間合いでは、ももまで巻き込んでしまう。
hawk bridgeさんは巨人の場所を教えたって、彼が対応できるほど猶予はない。
RKさんならなんとかできるかも知れないけど、何か裏があるようで彼は信用できない。
ならもうももが自分でどうにかするしかない。
「もも! 後ろだ!」
私が叫ぶと同時に巨人はももを殴りつけた。私の声に驚き振り返ろうとしていたももは、それを正面から受けてしまう。
HPの低いももが耐えられるはずもなく、彼女はゲームオーバーとなり、粒子になって消えた。
私はhawk bridgeさんが狙われないうちに、巨人に魔法を使った。
「Lアロー8」
巨人を閉じ込め、残りのHPの半分以上を削った。
身動き取れなくなった巨人に、RKさんが接近した。
「最後だ。一刀両断」
巨人はHPが0になった。
ももが消えた事に一抹の不安を抱えながら、私達は探索を始めた。




