廃人による亀裂
「その……これは……」
頭が真っ白になって何も考えられなくなった。
何が起こっているんだ? 何が悪かったんだ? 何をすればいいんだ?
いくら考えようとしても、脳が処理を拒んでいる。
私が黙っていると、痺れを切らしたhawk bridgeさんが口を開いた。
「君、チーターなのか? もしくはそれに近いバグを使ったプレイヤーなのかい?」
咄嗟に違うと言いかけたけど、何も違わない事に気付いた。私はワーウルフと同類のプレイヤー。
「……はい」
「最低だね。俺を初心者のフリして化かすのはさぞかし楽しかったんだろう。他人の努力を踏みにじる君みたいなプレイヤーとあんなに仲良くしていたなんて、一生の恥だよ。もう二度と俺の前に現れないでくれ」
彼は冷たく言い放つと、颯爽と去ってしまった。
私は放心状態になっていて、追いかける事すらしなかった。
……とりあえず、ももに状況説明をして、なんとか仲を取り持ってもらえないか相談しよう。
そう思ってフレンドリストを開いた。
「あれ?」
そこにももの名前はなかった。
……そうだ、hawk bridgeさんをフレンドにする時、一番上の人を消したんだ。そのフレンドはももだった。
遠くからメッセージを送るのは、フレンドじゃないとできない。
RKさんは元からフレンドじゃないし、hawk bridgeさんにはどうやらブロックされたらしい。もはやあのメンバーと連絡を取る手段は残されていない。
……このアカウントには、だが。
ryuutaならももとフレンドだ。アカウントを変え、早速メールを送った。
『hawk bridgeさんに正体気付かれちゃったよ……どうしよう』
『分かってるよー。今質問責めにあってるからねー』
『ごめんね……あ、今どこにいる?」
『鷹ちゃんの家だよー』
私はhawk bridgeさんの家へと走り出した。行ってどうするかは考えていないけど、とにかく動かないと事態は変化しない。
そして到着するとすぐにインターホンを鳴らした。
「こんな時に誰なんだい……ッ! ryuutaさん!」
あ、そっか。彼はアンブラァとryuutaが同一人物だとは知らないのか。
「用があってな」
「そうですか! ああ、今扉開けましょう」
彼がそう言うと、扉が一人でに開いた。
入って奥まで進み、前に通された部屋に行くと、ももが不貞腐れた表情で座っていた。
その前でhawk bridgeさんが向かい合うように座り、RKさんは窓際で立っている。なんとなく気まずい雰囲気がある。
「どうした?」
「いや、ちょっと事情があってね……それより、用って何かい?」
咄嗟に言ったことだから何も考えていなかった……何かうまく誤魔化せないかと周りを見る。
綺麗に清掃されていて、理由に使えそうな物が無かった。
「……ギルドを作る。入って欲しい」
この家が元ギルド本部と言う話を思い出して咄嗟に言った。
「分かった。ryuutaさんのギルドに入るよ」
え? それは予想外だった。彼はギルドマスターらしい。そう簡単に他のギルドに移らないと思って言ったのに、どうしよう。
とりあえずギルドを作らなければ。名前は……適当に『カリ・ユガの超越者』で良いかな。
「私も入ろうかなー。ギルドに所属してないしー、この四人のギルドなら面白くなりそうだしー」
ももはチラチラとRKさんに視線を送った。
「そうだな。僕も入るか」
トントン拍子に話が続き、恐らくこのゲーム最強のギルドが完成した。
全員ギルドに招待を送るとすぐにギルドメンバーが四人になった。
「でー、ギルドが完成してー、最初に何をするのかなー? マスター」
なんだかマスターと言われるのは恥ずかしい。
……そんな事言っている暇はないか。なんとかアンブラァの件を弁明しなきゃいけない。そのためにも、もっと仲を深めた方がいいと思う。
とにかく話せるタイミングを見付けるまでは、一緒にいないと。
ああ、でも何をするとか決めてなかった。どうしようかな。
「ああ、特に無いなら僕から提案していいか?」とRKさんが質問してきた。
緊張していた私には救いでしか無かった。
「好きにしろ」
「分かった。お前たちは、虚言の洞窟を知っているか?」
「知ってるよー。確かー、発見情報はあるけどー、クリア報告のないダンジョンでしょー?」とももは得意げに言った。
「そんな事ありえるのかい? このゲームは何百万人もプレイヤーがいるんだろう。なら一人くらいクリアしてもおかしくない……いや、クリア者がいない方が不自然だろう」とhawk bridgeさんは冷静な見解を口にした。
「それがねー、一度ゲームオーバーになるとー、ダンジョンが消えちゃうんだってー。それにー、発見情報の場所も毎回変わるのー」
「いや、だとしてもおかしくないかい?」
「そうだよー。だから虚言の洞窟って言われているんだー。どうせ誰かの嘘だろうってねー」
結構有名な噂だから私も知っていたけど、くだらない噂だと思って探した事すらない。
「それを見つけた。今から踏破しようと思うが、お前たちはどうする?」
「……へー。このギルドの初イベントとしてー、前人未到のダンジョンをクリアなんてー、ピッタリだねー。私は賛成だよー」
「そうだね。楽しそうだし、俺も賛成するよ」
みんな笑顔で賛成している。私も断る理由はなかった。
「賛成だ」
私達はダンジョン攻略の準備を始めた。