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廃人による本当の最終戦

 ワーウルフはリスポーン地点の家にいた。怒りを家具にぶつけながら悪態を吐き続ける。

「クソッ! あんなの聞いてねえよ! あいつさえいなければ俺が勝ってたのに、全部ryuutaとか言う奴のせいだ!」

 家具を破壊し終わると、興奮状態のまま家を出ようとした。

 そして玄関を開くと、私が立っていた。

「あ⁉︎ 何だお前は!」

 今の装備だと名前が隠されているんだった。すっかり忘れていた私は、彼の目の前で聖骸布を外した。

「あら、ご存知ありませんか? アンブラァですよ」

 ワーウルフの顔から見る見る血の気が引いていく。

「あ、アンブラァ⁉︎ 何でお前出てきやがる!」

「その残念な頭では一生かかっても分からないでしょうから、仕方なく教えてあげますと、ryuutaは私のサブアカウントなんですよ」

「サブアカウント……! 知らなかったんだ! 許してくれ!」

「いいですよ」

 私は快諾した。安堵の吐息を溢すワーウルフを尻目に私は話を続ける。

「私は構いません。あなたの不正なんて、私やももが参加した事に比べれば不正の内に入らないようなものでしょうから。むしろ申し訳ないとすら思っています。私がいなければ優勝はあなたでしたから。だから手は出しませんし、むしろサポートしますよ」

「私……は……だと?」

 私の背後を歩いていた通行人は、そのほとんどがワーウルフを睨んでいる。

 そして私が一歩横に逸れると同時に、全員が襲い掛かった。

「ああ、その状況でバグを使うと一瞬でゲームオーバーになるので、おすすめしませんよ。聞こえてないでしょうが」

 HPが無くなりそうになると、私がクロスボウを放った。これで完全回復。

「やめろォ!」

 大量の罵声やら怒声で声なんて聞こえないと思っていたけど、結構聞き取れた。

「何故ですか? 私はサポートしているだけですよ。ちょっと痛いでしょうけど」

「ウグッ! テメェら何なんだよ!」

 その質問に、ワーウルフを攻撃していた人達は嬉々として答えた。

「お前のせいで俺は負けたんだ! 不正なんかしやがって!」

「あなたがいなければももさんが優勝できたかも知れないんだ!」

「大会でバグなんて使いやがって、俺が懲らしめてやる!」

 つまり、彼らもワーウルフと同じタイプの人間だ。他人を蹴落とさなければ自分を保てない弱い人達。何でもかんでも他人が悪いと喚き散らして、自分の都合の悪い事を認めようとしない最低な人間の集まり。理由があれば他人に何をしてもいいと思っている外道の巣窟。

 この世の醜悪の集大成とでも言うべきか、それとも社会の縮図と言うべきか、どんな悪人だろうと弱者をひたすら痛ぶる様は、ただただ醜い。

 それでもワーウルフには、ほんの少しの同情も生まれないのは、私もその醜悪の一部だからだろう。

「う……グハッ……もう、許してくれ……」

 ワーウルフはそんな弱音を吐いた。でもみんなはまだ殴り足りない様子だ。

「まだ二分くらいしか経ってませんよ。彼らが疲れるか、大会の合計時間……大体一時間くらいですかね? それだけ耐えられたら止めますよ」

「うそ……だろ……」

 希望が潰えたのか、ワーウルフはガックリ項垂れて動かなくなった。死ぬ事はないと思うけど、精神疲労は相当だろう。

 ……いや、違うか。あれはもう一つアバターを出して、そっちを操作するバグか。アバターを二つ出す性質上、当たり判定が二つなる上、片方は動かせないので一見デメリットしかないけど、遠くに逃げてからこっちのアバターを消せば上手く逃げきれる。

 よく空っぽな頭で考えたなぁ。ただ、私にはまるで通用しない。

 私だって色々なバグを知っている。例えば、二つなったアバターを一箇所に集めるバグ、なども知っている。

「お帰りなさい」

 私は戻ってきたワーウルフにニッコリと言った。

「何でここに戻ってるんだ!」

「バグなら私の方が何個も知っているんですよ。普通戦闘では使わないようにしてますけどね。それと、もう逃さないでくださいね」

 最後の言葉はワーウルフに向けてのものではなく、その後ろで殺意を剥き出しにして、狼を狩ろうとしていた人達に向けてのものだ。

「うわァァァ! 助けてくれェェェ!」

「だから助けているではないですか。死なないように。死ねないように」

 彼の魂から出る悲鳴を聞くと、これまで怒りが快楽に変わっていく、なんとも言えない優越感と言うべきか、幸福感と言うべきか、そんな感情が湧き立ってきた。

 もっと悲鳴を聞きたい。もっと痛めつけたい。頭がそんな感情で一杯になった時、自然と笑いがこみ上げてきた。

「アハハハハハ!」

 きっと今の表情は酷く歪んでいるだろうけど、人生で一番素直な笑顔になれていると分かる。

「あ、アンブラァさん……何をしているのかな?」

 声の方向を見ると、hawk bridgeさんが立っていた。

 最悪のタイミングを見られてしまった。

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