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廃人による七回戦

 開始と同時にももは姿を消した。いつもの戦法だ。範囲攻撃の乏しいナックルにはこの上なく有効な戦い方なはずだ。

 ワーウルフの背後に現れたももは即座に攻撃した。だがそれは虚しく空を切る。

 ワーウルフは回し蹴りをした。

 どの方角からの攻撃かもサッパリ分からない攻撃。

 それをももは、正確にナイフで防いだ。

「驚いた。見えているのか? それともトッププレイヤーのプレイヤースキルか?」

「どっちもはずれだよー。聞こえているって感じかなー」

「……なるほどな。最初の空振りは俺を動かして足音を出させるための誘導って事か」

 少しの言葉を交わすと、二人は凄まじい攻防を行った。見た目だけのワーウルフを見る事で攻撃のほとんどを回避して攻撃する、防御と攻撃が一体となった完璧なもも。

 それに比べて一般プレイヤーに毛が生えた程度のワーウルフ。

 正面戦闘の能力差は初めから分かっていた。ワーウルフのHPばかりがジリジリと減る。

「ッ! なんで速さだ!」

 ももの攻撃が宙を舞った。ワーウルフは見た目の方にあたり判定を移動させる事で回避したようだ。

「ならこれでどうだ!」

 ワーウルフはオーヴァーブローを構えた。オーヴァーブローだけではないけど、必殺技にはかなり大きな効果音が出る。そして技を途中でキャンセルすれば音が一瞬残る仕様になっている。つまり、その一瞬だけは透明と言うアドバンテージを持った状態で攻撃できてしまう。

 ももとワーウルフはお互いに睨み合い、タイミングを見計らっている。

「空蝉」とももは突然技を使用した。これはカウンター技なので、攻撃されてなければ不発に終わる。

 当然の如く不発に終わる……はずもなく、ももはあたり判定だけのワーウルフの背後を取った。そのまま攻撃すると、オーヴァーブローを溜めていた見た目は消えて、あたり判定だけだったワーウルフが姿を現した。

「バグは1つだけじゃないと思ってたよー。見た目と分離した後でー、あたり判定だけが動けるバグでしょー? よく見つけられたねー」

「チッ! なんで分かった!」

「時間が経てば対策を練られると分かった君はー、この戦闘をなるべく短く済ませたいでしょー? 決着を焦るなら君は最短距離を最大速度で迫ってくるでしょー? なら君から私までの最短時間を計算してー、それに合わせてればいいだけだよー。簡単だねー」

「滅茶苦茶言いやがって! それができるならみんなやってるんだよ。最強連中はみんなこうだ。俺ら雑魚の努力なんて知らないで、ちゃんとやれだの、もっと頑張れだの、俺らは必死こいて頑張ってんだよ!」

 ワーウルフは突然の自分語りを始めた。ももは冷め切った視線を送る。

「大変そうだねー。でもそんな事言ったって同情はされないしー、私は君を許さないよー」

「俺も許す気はねえ。弱者の苦しみを味わえ! 強者!」

 何かそれらしい事を言っているが、残念ながらこのプログラムで構成された世界で感情論は通用しない。

 あたり判定をずらしても、位置が分かるももには意味がない。攻撃される度に直前で反撃していた。

 それを見てホッとした私は、RKさんの主張に疑問を投げかける。

「負けそうには見えないな」

 それを聞いても飄々とした態度のRKさんは、なにか底知れない恐ろしさがあった。

「あいつを信用するならそうかもしれない。どうでもいい事だけど、どうしてそんなにあいつを信用してるんだ?」

「昔からの仲間だからだ」

 ももの実力は何度も戦っている私が一番よく知っている。純粋なプレイヤースキルで彼女に勝てる人物がいない事も、その差は少しの工夫ではどうにもならない絶対的な物である事も知っている。

「そっちじゃない。僕が言ってるのは……」

 その瞬間、会場に鈍い打撃音が響き渡った。話に夢中になっていた私の視線が会場に向く。

 あまりの異常事態に理解するまで数秒動けなくなった。

 ももが、ワーウルフの一撃をまともに喰らったらしく、力なくその場に倒れていた。

 当然HPの少ないももはゲームオーバーになった。

『いい戦いだった。決勝戦は十分後だ』

「僕が信用できないのはそこの便利屋だ」

「あれ? バレてる?」とキッスインザダークさんは恥ずかしそうに頬を掻いている。

 少し遅れて、整理がついた私は武器を構えながら、

「裏切ったのか!」と叫んだ。

「違う。そもそもが向こう側の人間なんだろ」

「なんであんな奴についた!」

「金で雇われてなんでもやる便利屋が損得勘定以外で動くと思うな。最初から協力に金の話を出さない時点でおかしいと思っていた」

 確かに。便利屋なのに、知り合いでもない相手に金銭を要求しないなんておかしな話だった。怒りで盲目的な考え方をしていたかも知れない。

「そう言う事だよ。にしても、分かってるならなんで止めなかったのかな?」

 作戦会議の場でこの事を一言でも言っていれば、ももはもっと善戦できたはずだ。

「その必要がないからだ。大体のプレイヤーの戦闘スタイルも分かった。もうこの大会に用はない。それに……」

 RKさんは私の背中を押して言った。

「どっちにしろ、こいつなら勝てるからな。復讐はそれで終わりだ」

 私の心は冷たく燃え滾っていた。

 ワーウルフだけは絶対に倒す。それにだけ全神経を集中させる事ができた。不思議なほどに冷静な頭とは逆に、心は怒りの炎が噴き出しそうだった。

「ああ。勝ってやる」

 私は会場に向かって歩みを進めた。

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