廃人による二人目の主人公
「この人、なんとなく出会い厨っぽいなー」
パソコンを目の前にして、私はそう呟いた。
このゲームは、専用のハードを使えばフルダイブも可能だけど、私はパソコンを使ったキーボード操作を使っている。理由はそっちの方が慣れているのと、パソコンだと色々なアプリを起動しながらだったり、最新情報を調べながらプレイできるから。
今ゲーム内では適当な会話をしながら、最初の街『プレゼピオ』に向かって歩いている。このゲームにはワープアイテムもあるけど、hawk bridgeさんには持ってないかのように振る舞った。
「ないならあげようか?」とも言われたけど、
「いえいえそんな! 初対面なのに迷惑かけるわけにはいかないですから」と言って断った。
歩いている途中。hawk bridgeさんは空中を何度か弄ったかと思うと、困った顔をした。動きを見る限り、きっとフレンドとのメッセージウィンドウを開いたんだと思う。
「どうしましたか?」
「……実は、この近くのダンジョンで、俺の仲間が今ピンチらしいんだ」
「そうなんですね。私は大丈夫ですから、気にしないで行ってください」
「悪いね。終わったら連絡するから、フレンドになってくれるかい?」
マズい! フレンド欄は今一杯だった! このままフレンド申請されたら、『相手のフレンド人数が上限です』と表示が出てしまう。それは初心者設定に致命的だ。
すぐにフレンド欄を開き、一番上にいた人を消した。
「よし。フレンド承認の仕方は分かるかい?」
なんとか間に合ったみたい。「はい」と返事して、送られてきたフレンド申請に、承認ボタンを押した。
「頑張ってください」
「ああ、頑張ってくるよ」
彼は転移アイテムを手に取り、早々にこの場を去ってしまった。
「……はぁ、面倒だけど手伝ってあげるか」
私は手早くログアウトして、違うアカウントでログインした。このデータはバグを使わず、真面目に強くしているアカウントで、ステータスはこんな感じ。
name 【ryuuta】
LV 120
HP 2,521
MP 1,823
SP 92
ATK 260
MATK 3,940
命中 192
DEF 822
MDEF 985
回避 112
ステータスを見る限り、魔法使いに見えるかもしれない。武器だって杖を使っている。ただ、これにはちょっとした仕掛けがある。それの説明は後にして、早くhawk bridgeさんを追おう。場所はこの近くのダンジョンと言ってたから、きっとラストダンジョンの事だろう。
私は転移アイテム、帰還の羽(魔王城)を使った。
転移先では上階を目指すhawk bridgeさんの後ろ姿がチラリと見えたけど、すぐ先の角を曲がって見えなくなってしまった。
走って追いかける前に、魔法を一つ使った。
「ポインター」
これを使うと、マップに対象がどこに移動したかが一目で分かる。MP消費は12。使用制限はHP消費、SP消費の二つ。
私はポインターを追って、気付かれないように彼の数メートル後ろを走った。
二階層の中ボスフロアの扉の前で、彼は足を止めた。多分この部屋で仲間がピンチになっているんだと思う。
開きっぱなしの扉から中を覗くと、巨大なキメラのような敵と、数人の男性が戦っていた。
彼が中に入ると同時に、私は魔法を唱えた。
「アルケイデース」
MP900消費して、ATKが1800、命中が1350上昇した。
私が一つ唱えて、次に魔法が使えるまでの時間を待っている間、部屋の中では死闘が繰り広げられていた。
ヒーラーが一人癒しては一人瀕死になり、タンクが敵を引きつけても、範囲攻撃が容赦なくアタッカーに命中する。
アタッカーは一人を除いてほとんどダメージが入っていない。
その一人は、hawk bridgeさんだ。彼だけはかなりのダメージを与えたり、タンクが庇いきれていない攻撃のほとんど受けている。
私は安心しながら、次の魔法を使った。
「ゲニウス」
MP400消費して、DEFが1200、HPが4000上昇した。
キメラのHPが半分以下になり、行動パターンが変わった。この状態だと攻撃範囲が広くなる変わりに、攻撃までの時間が延長される。
キメラは部屋を縦横無尽に駆け回り、パーティ全員にダメージを与えた。耐久力が低かったヒーラーは、そこで力尽きてしまう。ノックバックのせいで陣形も崩れ、最早立て直すのは不可能だろう。
みんなが諦め、ボスが次の攻撃の前動作を始めたその時、次の魔法を使えるようになった。
「ウェポンチェンジ」
MP500消費して、杖が刀に変形させた。
「縮地」
SPを消費して敵の前方に瞬間移動する、刀のスキルの一つ、縮地を使い、キメラの目の前に出た。
「居合、一騎当千」
刀の最強スキルだ。一瞬の内に千の斬撃を加える技。キメラは怯んだものの、倒しきれてはいない。
私は淡々とマナポーションを使い、MPを500回復させた。
キメラは怯んでキャンセルされた技をもう一度使おうと、前動作を始めた。それに合わせて、私は魔法を唱えた。
「ウェポンチェンジ」
刀はナックルに変わり、そして煌々と輝き始めた。
「オーヴァー・ブロー」
ナックルの最強スキルだ。チャージ時間が長いけど、ゲーム中最高の瞬間火力を誇る技。敵の攻撃を一撃受ける覚悟をして発動したけど、相手が範囲攻撃を使うのは予想していなかった。
このパーティは満身創痍だ。次の攻撃を喰らえば、タンクの人以外はみんなここでゲームオーバー。でもこれじゃなきゃ倒しきれない。
早く溜れと願うけど、システムがその心を汲むことは決してない。無常さを感じながら、何か手はないかと考えているた、その時。
「アテンション!」
そう叫んだのはhawk bridgeさんだった。アテンションは敵のヘイトを自分に向けるスキル。
彼だってHPが残っていないのに、そこまで自分を犠牲にして仲間を守るなんて。優しい人だし、咄嗟にそんな判断ができるなんて、実力も相当な人だ。
キメラはhawk bridgeに向かって走り出し、三つある頭で噛み付いた。
「うぐっ……今だ!」
「助かった。オーヴァー・ブロー!」
私が拳を突き出すと、光の球が放たれた。一直線にキメラに突撃した球は、ぶつかった瞬間に壁に叩きつけられ、HPがゼロになった。