廃人による六回戦
『それでは、始めろ』
「準備できるまでは待ってやるぜ!」
次の試合は私と醸し人九平次さん。申し訳ないけど、今非常に虫の居所が悪い。本気で行かせてもらう。
「アルケイデース……条件付きウェポンチェンジ……」
私はその場から消えた。
「ッ! どこ行った⁉︎」
「『刀』! 縮地。一騎当千!」
死角からの必殺技。避けられるはずもなく醸し人九平次さんはHPが半分減り、吹き飛ばされた。
彼はすぐさま槍を地面に刺すことで勢いを止め、先頭の構えを取った。
「チッ! 不意打ちなんて寒い事しやがって!」
「なら次の一手はお前が打て」
「言われなくとも……オラ!」
愚直に突進してきた彼を、
「条件付きウェポンチェンジ……『暗器』空蝉」
刀をナイフに変えて背後に瞬間移動した。
「やると思ったぜ!」
自信満々に槍を構え直して私に突き刺した。
正確には突き刺そうとした。
「条件付きウェポンチェンジ『弓』バッグステップ。神の杖」
私は離れた場所から必殺技を使った。無数の矢が刺さり、醸し人九平次さんのHPはもう僅か。
「最後だ。条件付きウェポンチェンジ『槍』スレイプニルの召喚」
馬にまたがり、颯爽と醸し人九平次さんに突撃した。槍で防ごうとしていたけど、虚しく折れてしまい、そのままはね殺された。
『いい戦いだった。それでは次はまた十分後だ』
早々に試合を終わらせると、客席まで走った。
あと十分でももとワーウルフの戦いが始まってしまう。それまでになんとか作戦を立てなければならない。
みんなと合流すると、最悪の雰囲気になっていた。誰も言葉を発さず、怒りばかりが募っている。よく見れば他の観客もそんな感じだ。
それだけ五回戦は衝撃的だった。
「もも。勝算はあるのか?」と私は静寂に耐えきれずに口を開いた。
「逆にないと思うのかなー?」
冷静を装っているけど、声は震えているし、瞳孔が開いている。全身からの殺気も半端ではない。
「落ち着けよ。イライラしてたら集中が保たないだろ? それじゃ勝てる物も勝てないぞ」とRKさんは冷静に意見を述べる。
ももはその言葉に怒ったのか、ナイフを彼の首元に突き付けた。
「なら試してみるー?」
「いいぞ。一回リスポーンして頭を冷やすか?」
RKさんも刀に手を掛けて戦闘準備を完了させた。
まさに一触即発。極限の緊張感が場を支配した。
「やめろ!」とhawk bridgeさんが一喝すると、二人とも素直に武器から手を離した。
「今の敵はワーウルフだ。みんなが正々堂々実力を競う場を卑怯な手で汚した愚者を討つ時だろう。内輪で争うならその後でも十分じゃないのかい?」
「……八つ当たりしちゃってごめんねー」
「分かればいい。集中力だけは切らさないようにしとけよ」
一触即発の危険はなくなったけど、まだ作戦が立てられていない。
「で、どうやってワーウルフに勝つつもりだ」と私はももに再度質問した。
「ryuutaくんはさー、私の全力とー、あの卑怯者の小手先の卑怯とー、どっちが強いと思うー? どっちが卑怯だと思うー?」
私とももはプレイヤースキルが卑怯と言われても仕方ないレベルのもの。多分互角の戦いはできる。
けど互角が限界。勝てるかどうかはどうとも言えない。
それをそのまま伝えてはまた怒らせてしまうので、オブラートに包んで口にした。
「だとしても、作戦はあるに越した事はない」
「そうだな……あのキッスインザダークとか言う奴なら音で分かりそうだけどな」とRKさんは呟いた。
ああ、その手があったか。
「私の話をしてたかな?」と急にキッスインザダークさんが話しかけて来た。
「流石の耳だ。その耳なら敵本体の足音が分かるだろ?」
「流石にソナー探知機じゃないから聞き分けはできないんだけど、これだけ静かならなんとかなるよ」
ならあたり判定の位置はどうにでもなる。
二人は手早くフレンドになった。これでメールで位置が送れる。
「話は終わったー? そろそろ時間だから行ってくるねー」
彼女はそう言って会場に向かった。
できる事は全てやったはずだ。時間も残り一分。後は祈る事しかできない。十分勝てる戦いではあるけど、自分の事のように緊張してしまう。
そんな心境と裏腹に、私のキャラクターは冷徹に会場を見ている。そのキャラクターの肩を叩いて、RKさんは耳打ちをした。
「この戦い、ももの負けだ」
私は耳を疑った。ももが負ける? 不安が残る中で、次の試合が始まった。