廃人による四回戦
次の試合はももとキッスインザダークさん。勝つのはももだろうけど、相手は醸し人九平次さんの相方。どんな戦いになるのか楽しみで仕方ない。
「よろしくねー」
「こちらこそ、お手柔らかに」
『それでは、始めろ』
これまでの二試合と比べて、開幕直後から一切動きがない。
「どうしたの? 得物も構えないで。ももさんともあろう人が警戒してるの?」
「流石にあれを見せられたらねー。あなたも武器を構えないのー?」
「ゆうくん……醸し人九平次があんなに格好よく決めちゃったからね。下手な事して冷めたら嫌だなーって。でもそろそろ動かないとみんな飽きちゃうから……行くよ!」
彼女は銃を取り出した。それを見た瞬間にももも動いた。
「ハイド」
ももは空気に溶けるように消えた。
「ごめんね。それ、意味ないんだ。成形炸裂弾」と言って彼女は何もない場所に向けて撃った。
着弾とともに爆破が起こり、それと一緒にももが爆風に巻き込まれていた。
直撃ではないからダメージは低いだろけど、ももの耐久力を考えると残りHPは一桁くらいか。
この大会中にももにダメージを与えたのは彼女が初めてだろう。それだけで普段なら歓声が上がるけど、前回の印象が強すぎてイマイチ盛り上がりに欠ける。
「……どんな原理かなー」
「私は他の人より五感が鋭くてね。ちょっとした足音なんかで丸分かりなの」
「なら小細工はなしで行こうかー。アーマードゾーン」
ももの体から無数の武器が飛び出す。その状態で距離を詰めて右腕を振るった。
今の彼女の攻撃は全てが実質的な一撃必殺技。複数の状態異常を同時にかけてくるので、一撃当たればもう勝機はない。
その攻撃を、避ける事なく正面から受けた。受ける直前に何発が撃っていたけど、全てあらぬ方向に飛んでいった。
感覚が鋭いだけで戦闘力自体はそう高くないのか。客席は冷ややかな視線を送る。
ももはもう決着を付けようと攻撃する直前、
「ッ! 空蝉!」
普段ぼんやりしているももが、珍しく焦って技を使った。
キッスインザダークさんの背後を取った後も、空中で踊るように体を捻っていた。
状態異常が解除されたのか、キッスインザダークさんは立ち上がる。
「あれ? 避けられるはずがないんだけどなぁ。自信なくすなぁ」
「跳弾……だよねー」
なるほど。ももは跳ね返った弾を避けていたのか。
凄いけど、ちょっと地味かな。観客席から見ると弾丸は見えないし、ももがただ下手な踊りをしているとしか思えない。
「なんか……空気悪いね。どうせ勝つのはお姉さんだろうし、私負けようか?」
「うーん。空気悪くするだけ悪くしてー、妥協で終わらせたらー、それこそ最悪にならなーい?」
「それもそうだね。ならもうちょっと派手な技を使うよ」と宣言すると、マガジンを取り替えた。
「フルバースト」
この技は装填された弾丸を全て使い切る技。何発も弾丸が飛び交うのは、確かにさっきまでと比べれば派手な技だ。
それを寸前で全て避けるもも。
キッスインザダークさんはすぐまたマガジンを取り替えた。
「フルバースト」
また同じ技か……と思ったけど、全然違った。
一回目が跳ね返り、さらに弾幕の密度が上がった。
さらにマガジンを取り替え、
「フルバースト」
さらに放った。複雑に入り乱れた弾丸はお互いにぶつかり合って、互いの向きを変えあう。そうして弾かれた弾丸は他の弾丸にぶつかり、それをまた弾く。
不規則に飛び交う弾幕の中心にいる二人は、普通なら避けきれない。キッスインザダークさんはもう避ける気すらなく、何発も当たっている。
だけど、ももは普通じゃない。
ももは一撃も被弾する事なく、全て見切っていた。こんな芸当は彼女以外にはできない。
その間もキッスインザダークさんのHPは自分の弾丸で削られる。ももがこのまま避け続ければ勝ちだ。
ただ、当然ながら不規則に飛び交う弾丸の中にいたら、不可避な弾が襲う事もある。今接近している弾丸がそうだ。
ついさっきまで迫っていた弾丸に隠れて、回避先をまっすぐ狙う弾丸があった。
これは流石に避けられない。プレイヤースキルがどうこうと言う話ではなく、絶対に避けられない。そう思った時、ももはナイフを投げ、避けるのをやめた。
そのナイフは跳弾を引き起こしてどうにかなったけど、次の弾がもうすぐそこまで迫っていた。
すると、当たる直接で弾丸は他の弾丸に弾かれて、ももには当たらなかった。
よく見れば全ての弾丸はももに当たる直接で他の弾丸に邪魔されている。
彼女は全ての弾の軌道を計算して、一発の弾丸を弾くだけて当たらない場所を導いたんだ。
「あははー……驚いたな。これは勝てないや」
乾いた諦めのような笑いを浮かべるキッスインザダークさんに、ももは満面の笑顔で答える。
「私もー、ryuutaくん以外に本気になるなんて思ってなかったよー。凄いねー」
会話が終わると、キッスインザダークさんに最後の一撃が命中してゲームオーバーになった。
『いい戦いだった。それでは次はまた十分後だ』