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廃人による二回戦

 トーナメントの対戦順や、その相手はメールに送られていた。

 最初は私とRKさん。彼も残れたのかと安堵したすぐ後、私は表情を引き締めた。と言っても包帯のせいで私以外は表情なんてわからないけど。

 今は二回戦まで十秒前。審判役なのか、カリ・ユガが中心に立っていて、それ越しに向き合って構えて、後数秒をじっくり待つ。

 他の対戦カードと違って有名プレイヤーではなく、観客席にはまだらに空席があるけど、私にはそんなの目に入らなかった。

 今はただ、開戦を待ちわびるばかりだ。

「それでは、始めろ」と開幕を宣言すると同時に、刀が目の前に現れた。

 縮地を使ったのだと一瞬で理解した私は、それを紙一重で避けた。

 その隙に魔法を使おうとした瞬間。被せるようにRKさんは技を宣言した。

「一刀両断」

 視界が暗転したけど、この攻撃の当たり判定とダメージが生じるタイミングは完璧に覚えている。

 私はその攻撃をギリギリで避けた。

 暗転解除時、私のすぐ後ろにいたRKさんは、私が反応する前に、円形に大きく薙いだ。『薙ぎ払い』と言う技だ。

 流石に避けきれずに杖で防ぐ。弾き飛ばされた私には少しだけど、防ぎきれなかったダメージが入った。

 そして弾き飛ばされた私の前に、縮地を使ったRKさんが現れた。

「一回戦から見ていたが、ようは魔法を使う時間を与えなければいいんだろ」

 そう言うと同時に突きを繰り出した。

 空中で避ける事も、防ぐ事もできない私に容赦ない突きが刺さる。HPが二割が削られた。

 私は……その刀を掴み、もっと差し込んだ。RKさんは驚愕して隙ができた。

 その間に魔法を一つ唱える。

「アルケイデース」

 あと二つ……いや、耐久を気にしている暇は無さそうだ。ならウェポンチェンジだけ。

 RKさんは刀を引き抜き後方に跳んで距離を取る。そして空中で振って付着していた血を払った。

「一筋縄では行かないか……流石だな」と無表情で言葉を掛けてくれる。

 ここで時間を稼げればいいけど、多分リキャスト時間を頭に入れての会話だろうから引き延ばしは難しそうだ。

「こっちの台詞だ」と返事すると、そのまた返事とばかりに刀が迫っていた。

 一度見た技を二度も喰らうと思わないで欲しい。

 私は刀を避けながら一歩踏み出した。ほとんど接触に近い状態の今、刀には攻撃手段がなかった。離れるにも一瞬の隙が出来る。その一瞬が勝負の境目だ。

「ウェポンチェンジ『弓』」

 すかさず私は魔法で武器を変えた。

「バックステップ」

 今私が使った技は縮地と対の技。相手と距離を取る技。当然これを使われた場合、遠距離攻撃を持たない刀の出来る行動は一つしかない。

「縮地」とすぐに迫ってきたRKさんを見て、私は勝利を確信した。

 私はバックステップの直後に『トラップ』と言う技を使った。それは自分の目の前にトラばさみを仕掛けるだけの単純な技だ。トラばさみの効果はダメージと移動速度低下。

 RKさんはそれを踏んでしまった。トラばさみが足に深々と突き刺さり、HPをかなり削った。

「クソ! 薙ぎ払い!」

 やけになって技を使うけど、そんな技は簡単に避けられる。

「ラーク」

 これはハイドと同じで姿を消すスキル。これで縮地を使えなくした。

 接近手段を失った刀使いは、もう何も出来ない。将棋で言うところの詰みだ。

「神の杖」

 私は弓の必殺技を放った。

「っく! 燕返し!」

 RKさんが使ったこの技は飛び道具を無効化する技。とは言え、防げるのは一撃だけ。雨のように降り注ぐ矢の一撃を防いだところで効果はなく、矢の雨はHPを半分減らした。

「終わりだ」

「……もういい。僕に勝ち負けは重要じゃない。戦って経験を積む事が重要なんだ。それに……お前ならどうせ決勝に行ける。お前とももの決勝になれば、賞品はどうせももに渡る」

 私には意味がわからなかった。確かに私はももに勝っても、装備は譲渡する気だった。でもそれが彼と何の関係があるのか不明だし、他の文言も理解不能。

 元からあれこれ考えるのは苦手なので気にしない事にした。

「早く終わらせろよ。観客がこうなってちゃ、降参もできないからな」

 私は観客席の方を見た。驚くべき事に、まだらにあった空席は人ですし詰めになっていた。

 全員立ち上がって、私達に血生臭い声援を送ってくれている。

 今まで戦いにばかり集中していて気付かなかったけど、体を震わせるような大声が私たちには向けられていた。

 確かにここで降参でもしようものなら、この熱気に当てられたプレイヤーに刺されかねない。大会を観戦しにきた彼らの期待に応えようと、私は矢を放った。

 RKさんはゲームオーバーになり、粒子になって消滅した。

 私はこの戦いに勝利したんだ。

『いい戦いだった。それでは次はまた十分後だ』と無機質なアナウンスが流れていたはずだけど、多分この場の誰も聞こえていなかっただろう。

 この場を覆うような歓声により、他の音は全てかき消されていた。

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