廃人による一回戦
ローマのコロッセオのような会場で二人と合流した私は、今か今かと開催を待っていた。RKさんも大会開始寸前にログインして、準備は万端。
周りには数百人のプレイヤー。トーナメントに上がれるのはたった八人。景品を手に入れられるのは、たった一人。みんな緊張で今にも倒れそうな表情をしながら、深呼吸をしたり、手に人と書いてみたり、各々の緊張のほぐし方を実行している。
だけど、私達は堂々として冷静に装備の確認をしていた。
そして九時を回った瞬間、会場の中心に赤黒い布を羽織った老人が現れた。赤いオーラを纏っていて、イベントキャラだと一目で分かった。
『私はカリ・ユガ。今、ここは私の時代。ここに秩序などない。ただ争え。そして私を満たした者には、その証をくれてやろう。さあここに、『カリ・ユガの時代』を宣言する!』
その声と共に、眼前にバトルスタートの表示が出た。
開幕と同時に私は魔法を唱え、ももは姿を消し、RKさんは縮地で遠くに行った。hawk bridgeさんは私の戦いを見ようとすぐ側にいる。
「アルケイデース……ウグッ!」
私の武器を見て最初から狙っていたのか、魔法を唱えた途端に一人のプレイヤーが襲ってきた。杖は対人戦最弱候補の一つだから仕方ない。
プレイヤーネームは……醸し人九平次!
「あれ? お前杖か! 悪いな、槍かと思って準備もできてないのに攻撃しちまった」
ダメージはそう高くないけど、最初に使おうとしていた槍の必殺技が使えなくなってしまった。
「お前はまだ被弾してないな……必殺技を使って上に跳べ」
「よく分かんねーけど、まあ攻撃しちまった詫びだ! 『スレイプニルの召喚』!」
彼はスレイプニルの機動力で会場の壁に向かって走り出し、壁を台に上空へ駆け上がった。
それを見た時、もう一つ魔法を使った。
「ゲニウス」
彼が遥か上空まで移動した時、魔法再詠唱までの時間が終わった。
「ウェポンチェンジ『刀』。縮地」
これでMPが尽きた。残り23。自然回復は一秒毎に1ずつ回復する。
私はそれに縮地で接近した後、馬に跨った。自転車の二人乗りみたいな状態だ。
「これでどうなるって言うんだよ?」
「初心者か。黙って見てろ」
下を見ると、まるで世界終焉。高域まで広がる爆破や、矢の雨に、宙を飛ぶ業火。滝のような濁流や、会場全体を凍らせる猛吹雪。もはや地上にいたプレイヤーは、同士討ちでほとんどが残っていないだろう。
毎度大会お馴染みの光景だ。広範囲の攻撃を複数のプレイヤーが同時に行うため初手はこんな感じになる。これを避けられるかどうかが大会の最初の難所だ。
「スッゲェ! ありがとな兄ちゃん!」
「どうでもいい。後は自分でどうにかしろ」
私は未だ上空にいるスレイプニルから飛び降りた。
生き残ったプレイヤーは数十人。その中の大半は有名プレイヤーのももに夢中。ストーカのように追い回しては、触る事すら敵わずに倒されている。流石の人気にちょっとだけ嫉妬心が生まれる。
「ももなんて化け物と戦うのは馬鹿らしいと思わない? あなたなら名前も聞いた事もないし、簡単に倒せそうよね」
私の周りには五人の男女がいた。打ち合わせしたように同時に襲ってきたからには、多分仲間同士なんだろう。チーミングがズルいとか言う気はない。私の方がズルいのだから当たり前だ。
敵が一斉に襲ってきて、今刃先が当たる、と思った瞬間、
「縮地」と技を使って私はそれを避けた。
敵は刃がお互いに刺さり合い、連携も無くなってしまった。
「……ッ! どこ行った!」
敵はあたりをキョロキョロ見回しているけど、私は見つからない。
「上だ。一騎当千」
刀の届く範囲にいた三人は即退場した。
「チクショウ! だが切り札は切らせた! 今がチャンスだ」
残った二人は合わせて得物を私に振るうけど、寸前で全て避ける。
そして前回ウェポンチェンジを使ってから四十秒が経った。
「お前達には無理だったな。条件付きウェポンチェンジ『拳銃』」
説明すると、ウェポンチェンジの元のMP消費量は500。それに使用制限が三つ付いているので、半分の半分の半分。つまり62.5。端数は切り上げなので63。
私のMPは23から四十秒経って63。ピッタリ使えるだけのMPがあった。
私は後ろに飛び跳ね、少しの距離を取ってから、銃を構えた。
「成形炸裂弾」
仲良く近くに居た二人は、成形炸裂弾の爆破範囲にきちんと収まってくれた。そしてこの二人を倒した事で、一パーティ綺麗に全滅を完了させた事になった。
残り人数は九人。後一人脱落すれば一回戦終了。
一息ついた瞬間。私は背後から殴り飛ばされた。
武器はナックル。さっきまでの有象無象の集まりと違って、かなりの実力者らしい。一撃でHPが半分になった。
「おっと、もっと弱っていると思っていたけどな」と敵はニヤニヤ笑いながら呟く。
「あてが外れたか?」と私は強がって返事した。
「いいや? 他の奴らが弱すぎて話にならなかったからな」
「そうか。せっかく生き残ったのに、俺と戦うなんて不幸だな」
私は銃を構えて一発放った。
それをするりと避け、懐まで踏み込んできた。
「もらった」
銃を向ける時間もない。でも私には関係ない。一発明後日の方向に撃った。
さっきの弾丸が跳弾している所に、今放った弾丸がぶつかり、軌道を変えた。
それは敵を捉えていた。
次の瞬間……敵をすり抜け、弾丸は私を撃ち抜いた。
「ウグッ」
「フハハハハ! これで終わりだ」
敵が拳を構えた。終わった。そう思った瞬間。
『そこまで。思ってた以上に楽しませてもらった。ここで終わらせるのが勿体無い程にな。今残っている者で、優勝者を決めるトーナメントを行う。初戦は十分後。対戦カードは各自で見ておけ』
どうやら他で一人倒されたらしい。拳を治めた敵は、
「命拾いしたな」と言って立ち去った。
この大会、一筋縄では行かないようだ。