廃人による新装備制作
「お邪魔します」
ここは武具店。有名製作ギルドのマスターが経営している完全会員制の店。製作難度が滅茶苦茶に高かったり、作成確率が極端に低い物をオーダーメイドで作っている。ただし、値段も高い。安い物で数千万、高い物で数十億はする。
高級店だけあって内装も物凄く豪華。商品ケースにすら宝石をあしらっていて、全体的にセンスも高い。
そして店の奥から店主のメイドさんが出てきた。
メイドの格好をしていて、名前もメイド。わかりやすいのか分かりにくいのか微妙な名前だ。
「いらっしゃいませ。あら、アンブラァ様ではございませんか。本日はどのようなご用件で?」とメイドさんは凄くかっこいいハスキーボイスで私に訪ねてきた。
彼は所謂ネカマ。現実は男だけど、ゲームでは女性アバターを使っている。でも声だけはどうする事もできずに、男らしい声で話している。
「ステータスを最低まで下げられる装備が欲しいんですが、なんとかなりますか?」
ステータスが低ければ、戦闘になっても自然に戦える。そう思って凄く奇妙な注文をした。
「ほう。ゲームリリース当初から製作職を致しておりますが、このような受注は初めてではございます」
「難しいですか?」
「難しい事は、ええ。左様でございます。ですが、制作に限って私に不可能はございません。それで、どの程度の弱さを御所望でいらっしゃいますか?」
「えーと、私のレベルが48,697なんですけど、それをどうにかレベル二桁くらいにしてもらえませんか?」
「それはまた……承知しました。完成次第お知らせいたします」
「ありがとうございます。あ、それと、飾ってある魔導書を見てもいいですか?」
「ええ、どうぞご自由に」
それだけ言うとカウンターの奥の部屋に消えた。
店はメイドさんが一人でやっているのに、私を一人にできるのはそれだけ信用されているからだ。
それより魔導書の説明をすると、このゲームは魔法を習得するのに魔導書が必要になる。
魔導書の入手法としては、ボスなどのドロップやダンジョンの宝箱などや、自作魔法という物がある。
自作魔法は制作職の人が特殊な紙とペンを使用する事で作れる物で、威力や属性、効果や使用制限を自由に決められる。
威力を高めれば高めるだけ消費MPが高くなる。もし消費MPが高すぎて使えない場合は、使用制限を設ける事で消費を減らす事ができる。一つにつき半減できるけど、三つまでしか付けられない。
他にも魔法自体にもレベルが設けられていたりなど、かなり複雑に作り込まれている。ryuutaや私が使う魔法は全て自作魔法だ。
ryuutaが使うための魔法を探すけど、めぼしい物が見当たらない。と言うよりは、ほとんどの魔法は持っていて新しく欲しいものがない。
そう思って隅から隅まで見ていたら、見た事もない物を見つけた。
「使用条件付きウェポンチェンジ?」と独り言を呟くと、店の奥から叫ぶような返事が聞こえた。
「ああ、新作の魔導書でございます。非売品ではございますが、アンブラァ様には特別にお譲りしますよ」
「いいんですか? お幾らでしょうか?」
「大体……四十億でどうでしょう」
「その倍でもいいですよ。いつもお世話になってますから」
「お言葉を返すようですが、私には私の商売のポリシーという物がございます。私がその額と言った場合、その額以外ではお売り致しかねます」
頑固な人だと思いつつ、支払いを完了させた。
購入後に確認すると、使用条件は室内限定、HP消費、使用後毒状態になるの三つ。これをryuutaに送っておいた。
さて、街でやりたい事も大体終わって、残った時間はあと十分。
十分は短いようで長い。何をしようか悩むと、そう言えばhawk bridgeさんの住所がわからない事を思い出した。
メールホルダーを確認すると、行き方が書かれたメールが一通送られていた。
その通りに行ってみると、立派なギルド本部の様な建物があった。
間違えたかと思ったけど、何度確認してもここだ。
「ああ、もう着いていたのかい。待たせてしまったかな?」
そうこうしている間に約束の時間になっていたようで、hawk bridgeさんが後ろから声をかけてきた。
それによって、この家が彼の家だと証明された。




