エピローグ
あの中東の動乱から、もう三十年になろうとしているのか。
今日、またぞろ中東危機が発生している。
その件に関する仔細や各国政府の対応に関する情報は、今では黙っていても俺の元に届いてくる。
CIA、SIS、DGSEと各国の情報機関の長官が真っ先に、かつダイレクトに俺に連絡をくれるからだ。
俺は集まった情報を内閣へと伝え、日本が国際社会において出来ること、すべきことを具申する。
今年で、数えで五十歳。俺の立場は、世界中のスパイと安全保障の元締めと呼べるところまで上り詰めた。
今まで経験してきた数多くの人生の中でも、これ程までに長生きし、得難い地位や知己に恵まれたことは無かった。
今世での生が、あと何年の命を許してくれるのかは分からない。それでも一つだけ確信しているのは、もう次の転生は無いだろうということだ。
前世までの俺は、激しい無念を抱きながら死んでいった。その想いが、幾度となく俺をパラレルワールドへと生まれ変わらせていった。
次に死を迎え入れる瞬間には、そんなものとは無縁だと信じている。
例え今世でやり残した仕事があったとしても、それは俺が育て世界中に送り込んだ多くの人材が引き継いでくれる。五十年の人生という、前世では叶わなかった長い時間を手にした賜物だ。
それに、何よりも大きいのは妻の存在だ。
俺が妻より先に死ぬ時は、その腕の中で安らかに逝けることだろう。俺が妻より後に死ぬ時は、再会を期して静かに眠りにつけることだろう。
「ミズホ――」
内閣への報告資料をまとめ、これで今日の仕事は終わりだ。残りの時間は、心静かに過ごしたい。
俺の人生において、最も安らぎを与えてくれる妻を呼び寄せた。




