第二話 ヤマト君からデートに誘われちゃった!
※ミズホ視点。
「えいっ、えいっ!」
あ~、やられちゃった。
暇つぶしにゲームセンターに来たけど、どれもムズかしすぎ。
この時間は空いてるかなって思ったけど、サラリーマンのオジさんが結構いるんだね。
他にも私と同年代の子たちの姿まで……おーい、学校はどうしたー?
「学校はどうした?」
って、ヤバ……私の方が声かけられちゃった。
この時間に制服姿はマズかったかな~。
(どうか、怖い人じゃありませんように……)
「……って、ヤマト君じゃん! おどかすのナシだよ~」
てっきりお巡りさんか、お店の人だと思った~。
「はぁ……何で制服なんか着てんだ? 本当に補導されるぞ」
「だって、だって~! 私だってまだ十七歳だよ? ホントは学校通って可愛い制服着て青春を謳歌したい年頃なんだから」
力説してみせてもヤマト君は眉間にシワを寄せて、大きな溜息ついてる。
おかしいなー、安保室の偉い人に同じこと言ったら、この制服を用意してくれたのに。
「とにかく出るぞ、ミズホ」
「えっ? なになに、デート? どこ連れてってくれるの?」
「……仕事だ」
やっぱりね……ヤマト君の方から会いにきてくれるなんて、そうだと思ったけどさ。
それでもカッコいい男の子と並んで街を歩けるんだし、まーいっか。
* * *
「今夜、情報提供者と会う。場合によっては、そのまま敵のアジトに乗り込むことになる可能性もある。待ち合わせは――」
うんうん、やっぱり仕事の話してるヤマト君はクールでカッコいいなー。
「おい、聞いてるのか?」
「はーい、聞いてまーす! 今晩のデートの待ち合わせでしょ?」
あ、また溜息ついた。
ちょっとはノッてくれてもいいのに。
「待ち合わせ場所は新宿・歌舞伎町のコマ劇の裏手側だ。遅れるなよ」
「えー、そんなトコで待ち合わせ? アルタ前じゃダメなの?」
「そんな目立つ場所にいたら、今度こそ本当に補導されるぞ。政府機関の人間が警察の世話になる気か?」
むむむ、政府機関の人間と来たか。
そうだよね、どう見ても高校生にしか見えない私たちだけど、れっきとした内閣五室の職員だもんね。
よーし! 明日の日本を担う私たち若人のためにも頑張るぞー!
「それじゃ、ヤマト君! 今晩のデートの予習しとこ?」
「はぁ?」
「だって、私たちが政府機関の人間だってバレたらマズいでしょ? 夜の街に飛び出した高校生カップルの練習、しよ?」
まーた眉間にシワ寄せてる……カッコいい顔が台無しだぞ。
よーし、これならどうだ!
「ほら、こうやって腕組んで歩いてた方が、恋人っぽく見えるでしょ?」
「確かに、スパイだとは思われないだろうな……」
むー、ヤマト君の腕に思っ切りおっぱい押し付けてるのにクールな表情を崩さないなんて……ホモなの?
もっとモーションかけなきゃダメ?
「そうだよ? 私、歌舞伎町なんて初めてだし。ちゃんと彼氏として守ってね」
「……フリだけはしよう。だが、忘れるなよ。命を懸けた任務に当たるんだ。敵は女だからと容赦してはくれない。俺も任務の間は、お前が女だということは忘れる」
「……任務が終わったら?」
「次の任務まで、お別れだ」
やっぱりクールだよね。そこがカッコいいんだけどさ。
でも、いつか絶対、振り向かせてやるんだから!
だから、それまではフリだけでもいいから……こうして恋人の気分を味わわせてほしいな。
「……あれ? この人、誰だっけ?」
いつの間にか電気街まで歩いてきたみたい。
ガラス越しに並んだ、たくさんのテレビに見たことあるおじいちゃんが映ってる。
「ん? あぁ、社会党の委員長だろ」
「あ、そっか! 最近、よく見るもんね」
見た目は優しそうなおじいちゃんだけど、自民党の悪いトコとかズバッと言ってくれるから世間で人気あるんだよね。
「今、世間では自民党の献金疑惑が問題になってて国民の政治不信に繋がっている。この機に野党第一党の社会党が政権を握るつもりでいるんだろう」
う~~ん……政治とか難しいことは分かんないけど、このおじいちゃんの言ってることは正しい気もするんだよね。
今だってテレビのインタビューで、自民党の政治家が不正なお金を受け取ったことに対してコメントしてるし。
『自分は金を受け取っていない。秘書が勝手にやったことだと言い張る、けしからん議員がおられますが、秘書の不祥事は議員の責任なんです! 責任を取って議員バッジを外すべきですし、そんな議員を産んだ内閣は総辞職すべきなんです!』
えっと、今の内閣が総辞職したら新しい議員の選挙をするんだよね?
その選挙で社会党が自民党より、たくさんの議席を獲得すれば社会党に政権交代するから、それで総辞職すべきだって言ってるのかな?
「ねぇ、ヤマト君。本当に内閣総辞職とか、すると思う? そうなったら、私たちもクビ……かな?」
「確かに社会党は内閣五室の設置に反対してたが……俺たちの上司である総理や官房長官や各室長が、献金問題に関わっていなかったのが救いだな」
ん……何か遠く見つめてる?
考えごとしてるのかな、って思ってたらこっちに顔を向けてきたよ。
「ミズホ、お前は今の仕事辞めたいと思ってるか? 普通の女子高生やりたいと思ってるか?」
「……もちろん憧れはあるよ。同い年の子たちと一緒にワイワイやりたい~って気持ち、あるよ。けど――」
けど、それはイジワルだよ。
だって、今の私にとって一番大切なのは――。
「ヤマト君とお別れになっちゃうくらいなら、学校に行かれないことなんかどうだっていい。たくさんの友達より、ヤマト君一人の方が大切だもん」
ヤマト君、真剣な目で私のこと見てくれてる。
私も真剣な表情で見返すよ。
「俺も……仕事のパートナーはお前しかいないと思っている。だったら、今の関係を続けていくためにも今晩の任務に失敗は許されないぞ」
……ズルいなぁ。「お前しかいない」なんて言われたら、ハリキっちゃうしかないよ?
よし! 私のことパートナーだって言ってくれるヤマト君のためにもガンバんなきゃ!
それと、仕事だけじゃなくプライベートでもパートナーって言ってもらえるよう、ばっちしモーションかけなくっちゃね!