プロローグという名の最終局面
俺たちは敵のアジトを突き止めた。
俺と一緒に潜入した世界各国のスパイたちが、それぞれの軍から借りてきたライフル銃を一斉に構える。
狙いは、今や世界中を敵に回したアラブの重要人物だ。
「お前の野望も、ここまでだ!」
アメリカのスパイが勇ましく吠える。
「もう諦めて投降しなさい!」
ドイツのスパイが凛とした目を向ける。
「貴様に勝ち目など無いのだぞ」
イギリスのスパイが勝ち誇ったように笑う。
「これで終わりです!」
フランスのスパイが緊張しながらも銃口を突き付ける。
「ぐふふ、私の負けだと? 気に入らん小娘どもだ」
それに対して敵は怯むどころか、薄汚い笑みを浮かべてやがる。
「ノコノコとこんな所まで来おって……ど~れ、お仕置きをしてやろう!」
言うが早いか、敵は両腕を俺たちの方へと伸ばしてきた。
すると敵の十本の指が触手のように伸びて、四人のスパイの手足に巻き付いた。
「きゃあ!」
「いやぁん!」
「やだぁ!」
「ふえぇ~ん!」
四つの悲鳴が上がると同時に、彼女たちの体は宙へと浮かび上がった。
十本の触手に持ち上げられて、身動き出来ない状態で空中に静止している。
変装のためだか知らないが、ミニスカートなんて着てくるからパンツが丸見えだ。
「ヤマト君!」
もう少し眺めていたかったが、お呼びが掛かったからここまでだ。
俺の名前を呼んだパートナーに向き直ると、目を合わせて一緒にうなずく。
「行くぞ、ミズホ」
「OK!」
俺の合図にミズホが答える。
そして、それぞれが手に持った日本刀を二人一緒に天へと掲げる。
「曙光!」
「暁光!」
俺の持つ刀《曙光》とミズホの《暁光》が触れ合うと、まばゆい光が発して二振りの刀が光の中へと消えていく。
後に残ったのは、俺の手の中で輝く真剣――《旭光》だけだ。
「日いづる国の天照らす聖剣!」
俺は《旭光》を手にしたまま横に大きく一閃すると、四人を縛っている敵の触手を斬り払ってやった。
「ぶ、ブヒィィィ……!」
情けない悲鳴を上げている奴に向かって、俺は勢いよくジャンプした。
そして空中で《旭光》を振りかぶる。
「旭光・神聖十字斬り!」
光り輝く聖なる一撃を喰らわせてやると、奴はその光の中で真っ二つに斬り裂かれていった。
「ぶ、ぶぶ……ブッヒィィィィィ!!」
先ほど以上の情けない悲鳴を上げて、奴の姿は光の海へと溶けていった。
無様だな。
俺の仲間たちを怖がらせた罰だし、俺の一撃を喰らったのなら当然の結果だ。
「ぶ、ぶひっ……ぶひっ……」
光が治まると、そこにはアラブの重要人物が失禁しながら白目を剥いていた。
《旭光》の一撃は、こいつ自身の肉体には傷を付けず精神だけを切り刻んだわけだ。
こんな奴だが、俺も殺しはしない。
それに、こいつには聞き出さなくてはならないこともある。
「おい、ブタ野郎。お前が軍の情報を盗み出したのは分かっているんだ。そいつをアラブの上層部に渡す前に、お前の身柄を拘束させてもらう」
「ひっ、ひぃぃぃ! わ、わかりましたぁ! け、けど……どうして、そのことを?」
俺の決め台詞に敵も、とうとう観念したようだ。
それと、こいつからの質問に俺が答えるわけにはいかない。
何故なら、それは俺とこいつの前世に関わる話だからだ。
(そうだ……こいつは前世でも同じことをした。アラブと戦争していた多国籍軍が、雌雄を決するために地上戦の作戦を立てた。その地上戦を開始する日時の情報を、こいつは事前につかんでいた。そのため多国籍軍は不利な状況にハメられ、その隙に敵の親玉たちに逃げられてしまった)
その前世というのは、この世界と似た歴史を辿ったパラレルワールドだった。
そのパラレルワールドでも、こいつは結局捕まって死刑になった。
そして、この世界に転生してきたわけだ。
(指を触手に変える――前世と同じ能力を見て確信したぜ。恐らく能力だけでなく記憶も引き継いでいるんだろう。現世でも前世と同じように多国籍軍の情報をつかみ、そして今度は自分も親玉と一緒に逃げるつもりだったんだろうが、アテが外れたな)
お前がいた前世から転生してきたのは、何もお前だけじゃない。
そう、この俺――敷島大和も同じ世界から転生してきたんだ。
それが、お前の運のツキってやつだったな。
「俺のことなんざ、どうでもいい。だが、覚えておけ。俺がこの世界にいる限り、お前の悪事は俺が見逃さない。お前がこの世で幸福になることなんざ、無いのさ」
「ぶ……ぶひっ」
カッコよく決めてやると、その気迫に負けたかのように奴は気絶した。
小物の分際で俺に盾突くからだ。
そういえば、あいつらはどうなったんだ?
「ヤマト~! カッコよかったわよぉ♥」
「ヤマトさん! 助けてくれてありがとうございます!」
「オイ、ヤマト。流石の私も今回はお前にやられたよ」
「ヤマトくん、だ~~いすきっ♥」
解放された四人のスパイたちが俺に駆け寄ってくる。
さっきまで敵の触手に縛られていた連中が、今度は俺の身を束縛する気か?
「ダメよ! ヤマト君は、わたしの~~~!」
他の四人には渡すまいと、ミズホが後ろから抱き着いてきた。
まったく、背中にFカップのおっぱいが当たってるんだが……それとも、ワザと押し当ててるのか?
「お前たち、まだ任務中だぞ。浮かれるのは無事に帰ってからにしな」
「は~~い♥」
俺のクールな台詞に五つのいい返事が返ってくる。
これでも各国を代表する優秀なスパイらしいが、俺の前では子猫も同然だ。
そんな世界中のスパイが、俺の言いなりになった経緯を話そう。