第9話 勇者と銀騎士の鎧
「ああぁぁぁぁーーーーっ!」
刃物男はいきり立って、駆け付けた婦警の大守さんを威嚇した。
その寄生といい、目つきといい、尋常ではなかった。
心なしか、目が薄赤く光っているようにさえ見えた。
「ひいっ!? は、刃物を捨てなさいと言っています! これは冗談ではありませんっ!」
脅えながらも、拳銃を構えて威嚇の姿勢を取った。
それも、後方に人がいない位置にしっかり回り込みつつ――だった。
このあたり、テンパりながらも彼女はちゃんと動けているように見えた。
「むっ……」
ただ、回り込んだ立ち位置がちょうど俺と刃物男との間になってしまった。
俺の位置からは、彼女の背中に隠れて刃物男が見え辛い。
これでは指弾を放っても彼女に当たりかねない。
彼女は口ぶりよりもちゃんと働けそうなので、任せてしまっても構わないか――?
銃を向けられれば、流石に刃物男も観念するだろう。
俺がそう考えた瞬間、刃物男がそれを裏切った。
「ああぁぁぁぁーーーーっ!」
大きく刃物を振りかぶり、大守さんに斬りかかったのだ。
直後にパァン! と乾いた発砲音。
大守さんが拳銃を撃ったのだ。
銃弾は刃物男の太腿に直撃したようだ。
「があッ……!」
撃たれた刃物男はその場に崩れ落ち――刃物も地面に落ちてカランと音を立てる。
発砲まで行ってしまったが、それはもうあの男の自己責任だ。
これは撃たれても仕方がないだろう。
彼女が無事刃物男を制圧してくれて、俺も助かった。目立たずに済む。
そうほっと一息ついた瞬間――刃物男は何事もなかったかのように立ち上がり、彼女に向かって肉薄していた。
「……!? きゃああぁぁっ!?」
そして首を片手で掴むと、そのまま軽々と持ち上げて見せた。
片手で人を持ち上げるなど、人間の腕力でできる事ではない。
あの眼つき、正気を失ったような言動、それにあの力――
全くあり得ない事ではあるのだが――俺が異世界で足を踏み入れた事がある『魔の森』の瘴気にやられてしまった人間の症状を彷彿とさせる。
「くっ……!」
周囲の人間は脅えて見ているだけ。
これは俺が動かないと彼女が危ない。
しかし銃弾を受けてもああだった男に指弾では効果が薄いかも知れない。
直接引き剥がしに行くべきだがそうすると目立つ――
そこで俺は、アルマに呼びかける事にする。
(アルマ! おいアルマ聞こえるか!?)
(な、何だナオ……!? 助けてくれるのか!?)
(違う! 建物の出口あたりに霧を出してくれ! 目くらましにする!)
アルマの魔法であたりを霧につつみ、それに隠れて事を済ませようという事だ。
そうすれば目立たなくて済む。
俺は神の加護を受けた勇者のみが使える神性魔法を除けば、ごく一部の初歩的な攻撃魔法と回復魔法しか使えない。
それだけ神性魔法の習得のハードルが高く、他を覚える余裕など無かったという事なのだが――とにかく、今欲しい霧での目くらましのような小洒落たものは使えない。
(ば、馬鹿を言うな! 今の私にそんなことをさせるつもりか、この鬼! 助けてくれると思ったのに!)
(あーあーわかったもういい! お前はお前の戦いに専念してろ!)
駄目だあいつは話にならない。
俺一人で目立たずに何とかしたいが――!
と考えて、俺ははっと閃いた。
ああそうだ、目立っても正体が分からなければ別にいいか!
時間も無いし、すぐに行動に移すことにするべし!
「アイテムボックス! 銀騎士の鎧!」
俺は物陰に隠れて、広大な容量を持つアイテムボックスを呼び出した。
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