第62話 勇者と何の捻りも無い無双
グジュルルルルルゥ――!
カラララ――カラララ――!
ササゲヨ……! チトタマシイヲ……!
ドラゴンゾンビにデュラハンにノーライフキング。
いずれも最高級のアンデッド達が、目の前に現れた俺を取り囲んでくる。
ノーライフキングは結構知能もあるから、普通に言葉も発している。
とはいえ俺との力の差も分からない程度の知能だ、特に脅威でも何でもない。
こいつらが本当に賢いなら、俺が現れた瞬間速攻で逃げて隠れるのが正しい。
「暴れてその辺壊されちゃ、資産価値が下がって迷惑なんだよ。俺が相手してやるからかかって来い!」
ちょいちょい、と手招きする俺の意図が伝わったのか――奴らが一斉に俺にかかって来る。
――避けずに受ける!
真正面から振り下ろされるドラゴンゾンビの爪を左手で、デュラハンの持つランスの一撃を右手で止めた。
避けて建物でも壊されたら勿体ないからな! 経済的な損失はなるべく最小限に、だ。
「ちょっと借りるぜ!」
デュラハンの持つランスを、力づくでむしり取る。
巨大でしっかりした造りだが、血錆びてもいる。俺が本気で振り回したら折れそうだ。
なので――
「事象加重!」
血錆びたランスが、眩いばかりの光に覆われ輝き始める。
これは魔術でも武器でも人でも、何にでも効果を発揮する。
今のこいつは、伝説級の聖剣や魔剣にも匹敵するような存在に昇華している事だろう。
勿論、伝説級の聖剣や魔剣を事象加重すれば更に上の威力を発揮するが――
俺が魔王を倒す時に使った聖剣は返却して来たし、今はこれで十分過ぎるくらいだ。
「ほらよっ!」
ランスを貸してもらったデュラハンに、お礼の一刺し。
俺の背丈よりも長いくらいの大物だが、こんなものは軽い軽い。
ランスの穂先は唸りを上げてデュラハンを襲う。
ドウッ!
一撃で上半身が吹っ飛ぶ。
ドウッ! ドウッ!
二発目で下半身。三発目でヤツが携えていた頭部。
それぞれ吹っ飛んで地面に残骸が転がる。
後でアルマに浄化して貰ってお掃除だな。
ピロン。
あなたは2400の経験値を得ました。
流石に結構経験値が入るな。
「次!」
左手で組み止めていたドラゴンゾンビの爪を引っ張り体を掴み、力任せに空中に放り投げた。
そして、落ちてくる巨体に連続突きを入れ、粉々に吹き飛ばす。
ピロン。
あなたは2600の経験値を得ました。
レベルアップはまだまだ遠いだろうが――
「燃エツキルガイイ――!」
ふわりと空中に浮いたノーライフキングが、俺に向かって魔法を放とうとしていた。
かなり大きなファイアーボールだ。こいつの魔法のレベルが窺える。
一撃で軽トラくらいは吹っ飛ばすだろうし、こんなものがその辺のビルに着弾すれば火災も起きうる。
「おいコラ! そんなもんぶっ放したら街が壊れるだろうが! ちゃんと俺を狙えよ!」
俺にならいいが、街の建造物にぶっ放されたら困る。主に資産価値的な意味で。
「――食ラエ!」
よし、ちゃんと俺に飛んで来た!
「ほらよっ!」
俺は地を蹴り、ファイアーボールに真っすぐ突っ込む。
ランスを突き出し、その先が触れるとファイアボールは跡形もなく消滅する。
勢いそのまま、空中のノーライフキングに肉薄。
連続突きがヤツの体をバラバラに吹き飛ばした。
ピロン。
あなたは3300の経験値を得ました。
うん。やはりノーライフキングは一番経験値が高いな。
「さて――まだまだ数多いな」
真近くにいた三体は撃退したが、まだまだアンデッド共はウヨウヨしていた。
――面倒だ。一気に固めるか。
下手に暴れさせないように、戦闘時間は短く切り上げたほうがいいからな。
俺はデュラハンランスを片手に、魔法を発動させる。
「バニッシュリング!」
生まれる光の環。それを――
「上級事象加重!」
結界を囲うようなサイズに巨大化。
別に上級事象加重まで使う必要は無いのだが、今はデュラハンランスの強化にノーマルの事象加重を使っている。
上級事象加重は空いていたのでそれを使った。
今のように二つを並行して強化したい場合があるから、事象加重系の能力は全部習得しておかないと、だ。
そのせいで俺は他の能力の種類が少ないわけだが――
ともあれ俺はグッと拳を握る。それに反応して光の輪が収縮を始めた。
グォォォォォォアァァ!?
それに絡め捕られたアンデッド共が、一塊になって道路に鎮座する。
触れただけで消滅しないのは、流石最高級のアンデッド共である。
しかしこのレベルのアンデッド共になると体も大きいので、かなりのボリュームだ。
「さぁて――無駄に暴れられても困るし、一気に殲滅させてもらうぞ!」
俺は拘束したアンデッド共に、雨霰とランスの突きを浴びせる。
密集した巨大な塊には、狙いをつける必要もない。
全部粉々になるまで、ただ突き刺しまくるのみ!
「だああああああぁぁぁぁぁっ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――!
ピロンピロンピロピロピロロロロロロロロロロロロロロロ!
突きの弾幕が奴等を粉々にして行き、撃破ログも絶好調で効果音を発する。
流石にまたオーバーフローするほどの速度ではないが、あっという間にかき集めたアンデッド共が消滅して行く。
「――よっしゃ。片付いたかな」
トータルで十分もかかっていないだろう。
一言で言うと、何の捻りも無い無双である。
これでも勇者なので、このくらいはやれないとだ。
一息つく俺の耳に、ふとある音が聞こえた。
パチパチパチパチパチ――
これは……拍手だろうか?
一体誰だ。結界の中には、俺しか入っていないはず――
俺は音のしたほうを向く
近くの信号機の上に、エメラルドグリーンの髪をした、耳の尖った女の姿が見えた。
ハイエルフ――? しかしアルマではなかった。
見た目中学生程度なアルマと違い、ちゃんとした大人の年齢なのだ。
だが顔立ちはアルマに似ており、非の打ち所のない整いようだった。
スタイルも理想的に整っており、まさに絶世の美女。
これは――俺はその人物に見覚えがあった。
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