第57話 勇者と臨時ボーナス
さて、というわけで特別業務の第一段階は大成功したので――
我々新経営陣としては、前体制との違いを実感してもらうためにも、儲けの中から社員全員に臨時ボーナスを支給する事にした。特別業務の成功に感謝して、という名目だ。
――その額は、1人1000万円ずつだ!
前社長にも言ったが、人の忠義が欲しければ普段からちゃんとエサを与えて飼わないといけない。マイルドな言い方をすれば、労力に対する報酬でちゃんとお返しする事だ。
社員達には俺達の勇者の力だの何だのは秘密だ。
なので、何故か分からないが会社命令で投資をやらされ、資金をばらまいた直後にそれらの価格が上昇に転じて、莫大な利益が上がるという不自然な事が起こった事になる。
それらの疑問は飲み混んで、外部に余計な情報を漏らさずこれからも頼む――という意味も込めた1000万である。リスク管理としては、決して高い額ではないと判断した。
本当はもっと出しても良かったが、あまりにも高すぎるとそれはそれで変に思われるという説もあるので、その額にしておいた。
だがそれでも、会社から出るボーナスとしてはとんでもない額である。桁外れだ。
社員達は皆目が飛び出んばかりに驚き、本当にボーナスが支給されると狂喜乱舞していた。彼らの俺達を見る目も一変し、まるで神を見るかの如くだった。
ゲーム的に言うと、完全に忠誠が100になりましたという感じだ。
そんなわけで社員達の忠誠心もめでたくMaxとなり、状況は再び結界内の魔の森に取り残されて暴落した会社の株や土地への資本投下フェーズに戻った。
今度は前回のような即投資、即回収とは行かず多少のクールダウン時間が必要だ。
結界が縮小&正常化された事で、何も知らない外部の人間からも『これは放置していれば、自然消滅するものなのでは?』と見られるからだ。
そういう人間は株価が下がった所を買っておき、結界が消え株価が戻ったら売ろうとする。
つまり俺達と同じ行動を取ろうとするわけだ。
そういう人間が多い程、今度は株価自体の下落幅が鈍くなってしまうわけで。
十分に価格が落ちるまでには時間が必要だし、必要とあらば裏工作を行う必要もある。
何の裏工作かというと、ずばり破壊工作。
いくつかの会社の社屋をわざと破壊させれば、見ている外野は他もこうなっては不味いと、株を売りに走るだろう。
そうすれば十分に株価は落ちてくれるはずだ。
正常化後も破壊された会社の株の値段は戻りが悪くなるだろうが、あらかじめそこは投資対象から外せばいい。
実際に工作を行うには、中のアンデッド共を自由に操る能力は俺にもアルマにもレナにもないので、レナに幻獣を呼んで貰って、そいつにやらせるのがいいだろう。
とまあ同じ事をするとは言っても、色々検討すべき事はある。
が、俺は非常勤なので全ては和樹とレナにお任せです!
いやー非常勤って素晴らしい、時間が好きに使えるのはいいなあ。
俺とアルマは再び家でダラダラするモードに入るわけだが――
その前に一つ、やっておくべき用事があった。
その日の夕方、俺はスーツに着替え出かける準備をしていた。
「アルマ。俺は出かけるからな。メシは冷蔵庫に入れといたから、腹が減ったら適当に温めて食えよ」
俺は今日もガン〇ム鑑賞中のアルマにそう告げる。
物語も大分佳境に入って来て、今晩中には最終回を迎えそうである。
見終わったらシリーズの続きのあれを見るらしい。それも元々俺がディスクを持っていた。
だが、こいつのハマりぶりはこのままだと最初から順にシリーズを全部見て行くくらいのノリである。
持っていないシリーズは買ってやらないとだ。
もう異世界に帰る方法も分からないのだし、日本を全力で楽しんでくれればいい。
そのために多少貢いでやるのは全然問題ない。
今財テクでゴリゴリ金を稼げているのは、アルマのおかげでもあるからな。
「ああ。でんしれんじで、ちんすればいいのだろう? 問題ない、使い方は覚えたからな」
「おぅ。優秀優秀。大分日本に適応して来てるな」
「当たり前だ、子供ではないのだぞ。ああそれから少し金を置いて行ってくれ。後でこんびににいっておかしを買って来るからな」
「……ほんとに日本にこなれてきやがったなー。酒は売ってくれんから気を付けろよ。お前はどう見ても未成年に見えるからな」
「分かっている。私が欲しいのはぽてちやあいすや、後はガン〇ムのおまけ付きのがむとかだ」
……単にアニメだけでなく、ガン〇ム商法にもハマるという――
これから俺も通って来た道を通りやがるんだなあ、こいつは。
「まぁいいが、何かあったらスマホに連絡しろよ」
「了解だ。で、お前はどこに行くんだ?」
「キノシタ広告の社長さんのとこだ。約束通り、あちらさんの会社の株を返しに行かねえとな」
一応俺が交渉させてもらった相手だから、俺が行った方がいいかなという事で――
それにレナも和樹も次の仕込みで忙しいので、ここは俺一人で行こうかと。
うまく行ったらメシを奢ってくれると言っていたような気もするし、楽しみにしておくか。
「遅くなるかも知れんから、眠くなったら先に寝てていいぞ。鍵はちゃんと閉めろよ」
言いながら、俺はお菓子代の一万円をテーブルに置く。
「分かった。では行って来るがいい」
こういう時にちょっと微笑んで行ってらっしゃいとでも言ってくれれば、ちょっとはほっこりするんだが――
残念ながら、アルマはそういうキャラではない。全く素の表情で俺を見送ってくれるのだった。
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