第5話 ハイエルフと過激思想
こいつの見た目は中学生なのだが、中身は数百歳。
なのでお子様扱いするとこういう反応が返って来る。
だが本人はクールな素振りをしているが、隠しきれない好奇心旺盛さがあり、案外そそっかしかったりもする。
あながち、見た目と中身がそこまで乖離しているわけでもない。
「まあとりあえずスプーン使えよ、ほら」
「あるならば早く出せ、もう」
そして、アルマはスプーンで牛丼を口に運び――
「おお……うまいな!」
大きな目を見開いて驚きを表現する。
「だろ?」
「ああ――これはさぞかし名のある料理人が作ったものなのだろうな――」
「いやいや。こりゃ誰でも作れるし、日本――っていう俺達が今いる国のどこでも食えるんだぜ」
「そうなのか!?」
「しかも安い。向こうの世界の価値で言うと――銅貨二枚あれば食える」
「本当か!? これほどのモノは金貨四、五枚にはなると思ったが……凄まじい安さだな」
「ああ。安くていいモノが多いんだ、こっちはな。もちろん高いモノもあるが」
「つまりこれよりもっと高くて美味いものが――?」
「あるぜ。また連れて行ってやるよ」
「約束だぞ! 絶対だな?」
「ああ、俺も美味いもん食いたいからな。俺がこっちに帰りたがったのも分かるだろ?」
アルマは俺が日本に帰るのを決めた時、あまり賛成はしないという様子だったのだ。
「まあ確かに美味いモノが多いのは素晴らしい事なのだが……お前は本当にこれで良かったのか? 向こうの世界の王どもは、お前が邪魔なだけだったんだぞ? お前がその気になれば権力の座を追われるからな。魔王を倒した勇者の名声は絶対的だった」
「そりゃ分かってるけどよ。何せ魔王を倒した途端にメシに毒を盛られるわ、謎の暗殺者さんが夜な夜なこんばんわだったからな」
その中には魔王を倒す戦いを共にした仲間もいたのだから、笑えない話である。
暗殺者ではなく政略結婚のために嫁を差し出そうとする国もあったが、それに乗ったら他の全ての国から暗殺者が来る。
どこかに付くという事は、その他全てへの宣戦布告だ。
それに、婿入りした国は当然俺を使って国の勢力拡大を目論むだろう。
極論すれば、俺はその国以外の全てを相手に戦争することを強いられるわけだ。
「そもそも勇者を作り出す手法からして褒められん。何人もに身体強化の劇薬を飲ませた上で無理やり『世界樹の修練場』に送り込もうなどと……殆どの人間は薬の副作用で体が壊れて死ぬか、魔物の餌になるかだ。お前は本当に奇跡的に辿り着けただけなんだぞ」
「まあなあ――それを乗り越えてよくこの牛丼の元に帰って来られたぜ。ありがてぇ」
「……茶化すな。私はお前が愚かな王どもを粛正してやった方がよかったと思うぞ」
「過激だな。それじゃあ俺が魔王に代わるだけじゃねえか。まあ俺思うに、魔王ってのは巨大な災害みたいなもんだ。それから世界をレスキューするのが勇者だわな。それを生み出すのはまあ必要な事だろうさ。多少汚い手だろうが非常事態だからな」
「お前、よくそんなに悟っていられるな」
「まあ一応大義名分ってやつはあるだろ? こっちの世界じゃあ自分の利益のために人を散々酷使する奴等を散々見て来たからな。それに比べりゃまだ――な」
「……こっちの世界は良さそうだが、そういうものなのか?」
「ああ。ブラック企業ってのは人を社畜ってのにしては、ボロボロにして使い捨てにしやがるぞ。どこ行っても人間の世界ってのはそんなモンなんだろ」
「……」
俺の言葉に、アルマは沈黙していた。
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