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第46話 勇者と元社長

「……開発課の有沢直です。これでも部下なんですがね?」


 まあ、レナみたいな美人の女性社員でないと目には入らないらしい。

 ヒラ社員なんて、愛人候補以外に価値は無しと。

 こういう所からして、ああいう労働環境になる理由も頷ける。

 基本的に末端で働いている人間に人並みの感情とか考えがあると思ってないよな、こういうタイプの人間は。

 まさに家畜、社畜。そういう事ですなあ。

 まあいい、俺は今さら悔い改めろとか言うつもりはないぜ。

 悔い改める猶予など与えん!

 仏の顔も三度まで――ただし外道は一発レッド! の精神だ。


「ぬ……そうか、で何の用だ有沢君?」

「もう一度言いますが、現状はレナが言った通り――会社の株の過半数を俺達が押さえました。そして過半数の議決権を持ってあなたを解任します。以上です、元社長。つきましてはあなたの保有している30%分の株式について――」

「な……ば、馬鹿を言うな! 証拠を見せろ証拠を!」

「レナ」

「はぁ~い♪」


 レナは元社長の目の前に、株券がどっさり入ったカバンを置く。

 これが俺達が大人買いした会社の株21%分である。


「これで21%分の株式になります」


 その証明書もある、レナがそれを元社長の目の前に差し出す。


「……だからどうした!? どこが過半数だと言うんだ!」

「……はい、これをご覧になって下さいねえ」


 続いてレナは、キノシタ広告の茜社長から預かった委任状を元社長の前に置いた。


「こ、これは――!?」

「キノシタ広告の保有株30%分に関する議決権の委任状です。これで51%、つまり過半数の議決権をこちらで押さえました」

「な……ば、馬鹿なキノシタ広告が私を売っただと……!?」

「まあ、会社が異変の真っただ中に取り残されている現状では、先行きが不透明ですからね。そうなると株式の持ち合いを解消して、こちらが保有しているキノシタ広告側の株式を引き上げたいと思うのは普通でしょう。ですから、持ち合い解消して株式を返却する約束をすれば、あっさり委任状を頂けましたよ」

「ぬ、ぬう……! こんな時に足元を見てくるか……!?」

「いや、当然のリスク管理でしょう。こんな時にリスクを顧みずに支えて貰えるかどうかは、日頃の行いによります。普段の行いが返って来ただけだと思いますよ? 人望が無かったですね、普段の会社の労働環境をキノシタ広告の社長さんに伝えたら、こんな経営陣は一掃されるべきと仰っていました」

「馬鹿な……! 君は自分から会社を売ったのか!? こんな時に何を考えている!? 不忠義者が――!」

「売ったのは会社じゃなくてあなたです、元社長。人の忠義が欲しければ普段からちゃんとエサを与えて飼わないといけませんよ? もう遅いですが――とにかくあなたは解任です。これは決定事項ですから。今までお疲れさまでした」


 と、俺は白々しくぱちぱちと手を叩いて元社長を労った。


「お疲れさまでしたぁ♪」


 レナも俺のマネをしてぱちぱちとやっていた。


「お疲れちゃんでーす」


 和樹もふざけた感じで拍手していた。

 ちなみにアルマはホテルの喫茶店でソフトクリームを食べて待っている。


「うっ――ぐぐぐ……!」


 元社長は顔を真っ赤にして怒りに震えていた。耳まで赤いぜ。

 いいねいいね。多少は悔しがって貰わないとな。

 今までクソみてえなブラック企業の犠牲になった人達の事を思えば、まだまだ甘いと言えるが――


「貴様ら! こんな事をして何になると思っている!? 経営権を握った所で、会社があの状況ではどうにもならんのだぞ!? このままでは倒産だ! こんな事をする意味があるのか!?」

「意味? ありますよ? 社会正義を貫くってやつですかね――ここで一つのブラック企業が無くなるんですから、いい事じゃないですか。その後会社が倒産するしないは度外視ですよ? 正義って見返りを求めるものじゃないでしょう?」


 あ、ハイ建前論です!

 倒産とかしないし! アルマに結界を解いてもらって浄化すれば元通りだからな。

 俺達にそれをコントロールできるなどと、元社長に分かるはずもない。

 だから俺の言っている事は元社長には本気に聞こえる。

 社会正義に燃えて私財を投げ打った馬鹿に見えているだろう。

 実際はそんなことあり得ませんがね!

 ちゃんと投資した以上の額はキャッシュバックを貰いますよ。それも腹案がある!

 元勇者をなめんなよ、自分へのご褒美も無いと動かねえんだよ俺は!


「ふっ……ふふふ――馬鹿だよ君は、馬鹿に付ける薬はない。勝手にしろ!」


 お、お手上げ発言ですか。

 上から目線で言ったつもりだろうが、声震えてますよ?

 悔しさを必死に押し殺して虚勢を張りますか。頑張りますねえ。


「どうもありがとうございます。それからもう一つ――あなたが持っている会社の株式をこちらで引き取らせて頂きますよ? 即金で三千万で如何ですか? このままの状況で恐らく会社は倒産でしょうが、あなたへの退職金代わりという事で――これを元手に新しい会社を起こしてやり直すのもいいでしょう」


 俺達が会社の株を買ったレートの更に数分の一に買い叩いた金額である。

 が、会社が倒産すれば紙切れになる株式を一括で現金化できるのは魅力だ。

 30%もの大量の株式を売り捌こうとしても、現在の状況では中々買い手も付かないだろう。下手をすれば売れないまま倒産して紙切れになってしまう。

 退職金代わりに――という俺の言葉を武士の情けと受け取ったか、元社長は首を縦に振った。


「……好きにしてくれ」

「――ではそのように。この先もお元気で」


 そう口で言うものの、俺の本音は全然違う。

 元社長の手元に株を残して置いたら、魔の森を正常化して株価が戻ればかなりの金額になってしまうからな。

 思いっきり買い叩いて、そしてその後、魔の森を消して原状回復して株価を元に戻す。

 差額分を思いっきり大損ぶっこかせてやるぜ!

 株の元々の額を考えれば、数十億の損害にはなるだろう!

 社長解任だけで済むと思うなよ!


 さてこれで、会社の実権は握った――

 だがまだ、やるべきことがありますなあ。

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