第40話 ハイエルフと株式のしくみ
確かにレナの言う通りで、百貨店内の様子は全くの平静だった。
俺はその理由を推測する。
「まあ一部は残ってるが、大部分は発生後30分も経たずに消え失せてるしな。道路はあちこちやられてるけど、都市直下型地震とかよりもよっぽど被害は少ないだろうしな」
「うーん……それもそうですか――」
「アレが何だったのかってのは、盛んに言われてるけどな」
と和樹が言う。
テレビでもネットでも色々言われているのだが、まあどれも的を得ない。
とはいえ数々の映像も残っているし、現に結界の中にまだアンデッド共が残っている。
さすがに起こった現象を否定する奴はいないが――
その理由、メカニズムを説明できる奴など俺達以外にはいまい。
偉い人たちが必死に調査をしているのだろう。何が分かるのかは分からないが――
「ここは有楽町だし、新宿からは離れてるからなー。まあ他人事だよな。電車とかが止まってるわけでもないし」
「皆さん不安はあるんでしょうけどねえ、まだ慌てるような時間じゃないって事ですか」
「はは。そうだな。でもそれでいいんだよ、大混乱になって貰ったら困る。流石にこの事態を利用して――とかやり辛くなるからな。倫理的に」
「それはそうですねえ、会社なんて乗っ取ってる場合じゃないってなりますよね」
「そうそう――あ、そういやあっちの方はどうなってますかと……」
と、俺はスマホを取り出してブックマークしてあるサイトに飛ぶ。
「何を見ているんだ、ナオ?」
チョコのソフトクリームをぺろぺろしつつ、アルマが覗き込んで来る。
食前にバニラ、食中にチョコ、食後にミックスだそうだ。
ソフトクリーム厨の行動は恐ろしいな。
そのうち糖尿になるんじゃないか、こいつは。
ハイエルフ様が糖尿になるのもちょっと見てみたい気はするが。
「うん? ああ、株の情報サイトだ」
現在の価格とかがチェックできる。
まあ投資とかやってる奴にはポピュラーなサイトだろう。
「かぶ? 野菜か?」
「いやそっちじゃねえ。会社の所有権を何千何万にも小さく分けて、その一つ一つを具体的に証文にしたもんだ」
多分説明合ってるよな?
「かいしゃ?」
「店のでっかいのだと思えばいい――かな」
「ふむ……つまり、店の権利の証文を一つではなくいくつも作ったという事か?」
ハイエルフ様の頭はいいので、俺の説明でもすんなり理解しているらしい。
「ああそうだ」
「何故そんな事をする? 沢山あると面倒じゃないか」
「一つ一つを人に売って、金を集められるようにするためだ。そのやって集めた金で商売の手を広げたりするんだ」
「しかし、買う奴に何の得がある? 沢山持っていれば店を自分のものに出来るのは分かるが――それなら普通に店を買えばいいだろう?」
「株を持ってると、会社が儲かった時には金を貰えたりするんだよ、配当っつってな。それに、株を安く買って高く売れば儲かるだろ? そうやって利ざやを稼ぎたい奴等が、色んな会社の株を売り買いしてるんだ」
「つまり、そのかぶを売り買いする利ざやだけで生きて行きたい奴が沢山いるという事だな? お前みたいな奴等じゃないか、働かずに生きたいだなんて」
「そうでもないと思いますよお」
と、レナが話に入って来る。
「どういう事だ?」
「その利ざやを狙う事を投資って言いますけど、投資をやっている人は大勢いるんです。その中で利益を出そうと思うと、一生懸命情報を集めて、少しでも他の人を出し抜く準備をする必要があります。常に気を張って、機会を逃さないようにしないとです」
「ふむ……?」
「その労力って、普通にお仕事しているのと変わりませんからねえ。むしろ失敗したら誰も助けてくれない分、危険が大きいですよね」
レナの言う通り。
ガチで投資やるのは、労力を考えると働いているのと変わらんと俺も思う。
いつ何があるか分からないから、ある意味24時間拘束だしな。
「なるほどな――そううまい話ではないと?」
「そうですねえ。お兄ちゃんがやりたいのは、充分にお金を持ちつつ、自分の気の向いた事以外は何もせずに自由に時間を使うって事ですから、もっとレベルが高いんですよお」
「……より腐っていると?」
「ふふふ。はい。でもその気持ちはよく分かりますよお」
「ま、金のあるやつの特権だな――世の中金が全てじゃねえとは言うが、確かに全てじゃねえが大抵は金で決まるわけで」
「金を増やすとか、かいしゃを乗っ取るとか言っていたな? 実際どうするつもりだ?」
「うん? まず会社を乗っ取る所から始めるが――見ろよ、これ」
俺はアルマにウチの会社の株価情報の画面を見せる。
折れ線グラフのチャートが表示されているが――
ここ数日で線がガクッと右肩下がりになっている。
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