第32話 勇者と東京都庁
「魔の森? 呪怨樹? どうしたんだよお前達、いきなり何言ってんだ!?」
混乱した様子の和樹。その背後に――
カラカラカラ――
地面からスケルトンが這い出して来て、和樹の身を捕らえようとする。
「え――うわあぁぁぁっ!? 何だこれ!?」
「でいっ」
ドガアアァァァン!
俺のパンチ一発でスケルトンは壁にぶっ飛んで激突。バラバラに崩れ落ちた。
ピロン。
あなたは10の経験値を取得しました。
しょぼい――最低ランクのスケルトンだったな。
「な、なななな……ど、どうしたんだよ直、お前何それおかしくね!? 何だよその力!」
「悪い和樹、後で説明するから今は黙って見ててくれ」
「あ、ああ――」
「お兄ちゃん、今のスケルトンは強かったですか?」
「いや最低ランクだ。これなら一般人でも身を守れるレベルだ」
最低ランクのスケルトンやゴーストというのは、動きも鈍いし行動パターンも幼児レベルだ。これなら気を付けさえすれば、一般人でも逃げられる。
勿論混乱は避けられないだろうが、最強クラスのアンデッドが生まれていたら目も当てられない事になっていただろう。そこは運が良かったと言える。
「まだ良かったですね――魔の森がこちらに現れたとはいえ、土壌は新宿の土地も混ざっていますから――結果的に本来の魔の森より瘴気が薄くなったんですね」
生まれる土壌に沈殿した瘴気が深く濃い程強力なアンデッドが生まれるものだ。
魔の森の深部には強力なアンデッドがゴロゴロしていた。
長い時間をかけて沈殿した瘴気のるつぼから生まれてくるからだ。
このまま時間を置いたら、瘴気はどんどん溜まって強力なアンデッドが生まれるようになるだろう。
「今のうちに早く何とかした方がいいな――レナ、俺は全体の様子を見て対処法を考えてくるから、お前は和樹を頼む。現れた魔の森がどの程度の広さか分からねえけど、森の外に出れば安全のはずだ」
「分かりました。周りの人の避難誘導と、道中のアンデッドの退治もしちゃいますね」
「出来るだけ目立つなよ。後で厄介な事になるからな」
「大丈夫ですよお。幻獣を呼んでやらせますから。人ごみに紛れたらわたしが操ってるって分かりませんからねえ」
「ああそうだな。召喚魔術は使い手を分かり辛くするのには向いてるよな」
「はい。じゃあお兄ちゃんも気を付けて下さいね」
「ああ、何かあったら連絡するから」
さて、俺はレナのように何かを使役して戦うスタイルではないので、暴れていると目立つ――いつもの通り、あれをやるか――!
「アイテムボックス! 銀騎士の鎧! そして装着!」
今の魔の森と融合した新宿は、マナも十分。
銀騎士の鎧も元気よく俺の身体に纏わりついて来る。
「っし! 変装完了! これで正体はバレねえ!」
「いや直――それ逆に目立ちまくるんじゃねえのか?」
「目立っても中身がバレなきゃ問題ない! 普通に顔出しでやるより全然いいぜ! どうせ行動でも目立ちまくるんだからな!」
「あははははっ! でもカッコいいですよお。変身ヒーローみたいですねえ」
「変身ヒーローって言うよりさま〇うよろいだけどな――さぁ外に出るぞ!」
俺達は店の外に出る。外にもあちこちに魔の森の呪怨樹が出現しており、スケルトンやゴーストが生み出されて徘徊している。
一般の方々は悲鳴を上げて、とにかく逃げ惑っている。
しかし低級のアンデッドのほうが一般人より動きは鈍い。
捕まっているうっかり者は――ああそれでも何人かいるか!
俺は次々に、目についた所を殴り倒して捕まった一般人を開放して行った。
全部ワンパン。経験値は10。まだまだ低級レベルだ。
「とにかく樹が生えていないあたりまで逃げろ! そうすればこいつらはいないぞ!」
助け出すとそう呼びかけて避難を促す。
「あ、ありがとう――!」
「助かったよ――!」
「遠くに逃げればいいんだな、分かった――!」
流石に緊急時なので、俺の白昼堂々フルアーマーに突っ込む奴はいなかった。
店前の混乱は収めたが、早く全体に手を打たないとな――!
「お兄ちゃん、もう行ってください! あとはわたしが――」
言いながらレナが魔法を詠唱すると、少し離れた所に白銀に輝く鬣を持つライオンのような獣が姿を現す。
普通のライオンの二倍ほどもある、雄々しく神々しい姿だ。
それが、そこらに現れるアンデッドを片っ端から蹴散らし始めた。
うん、あいつは強そうだ――頼りになるな。
「皆さん、こっちです! こっちに逃げましょう!」
レナの呼びかけに従って、その場の皆が後を追って逃げて行く。
その集団の前方を露払いするように、白銀のライオンが走って行く。
よし、俺は――! とにかく全体の状況把握が第一だ。
となると、高い所から――ここから近くて高いもの……
あれだな! 東京都庁!
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